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浜松市情報公開資料調査報告2
― 上下水道部協議文書、下水道改築・念書・提案書類・協定・覚書・申請書から ―
水道民営化(コンセッション)反対市民有志
2018年12月21日に新たに公開請求をおこない、2019年1月18日に閲覧しました。
公開請求した文書は以下です。
水道コンセッション合意に関する上下水道部と市長との協議資料(2017年)
下水道コンセッション合意に関する上下水道部と市長との協議資料(2014年)
下水道・公共施設等運営権実施契約書の第4項、改築費約250億円提示の上下水道部での経緯、積算根拠を示す文書
下水道、国交省から市に出された、民間提案書の守秘義務誓約の念書
下水道コンセッションでの、SPCの提案書類及び参考資料、提案書類の履行に関する覚書ほかSPCとの覚書文書すべて
下水道関係、西遠処理場の改築に関する基本協定・西遠処理場の第1期改築工事工程表
西遠処理場改築工事で西原環境が出席した際の市の議事記録
下水道、市が国交省中部地方整備局に出した社会資本整備総合交付金一括設計審査(全体設計)申請書
それにより、開示された文書は以下です 。
第2次請求開示文書
2014.8.20西遠流域下水道移管に伴う官民連携について 上下水道部 市長調整用
2016,11.11浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業 募集条項
2017.4.5提案書類開示の依頼(国交省)
2017.8.22浜松市水道事業へのコンセッション導入の必要性
2017.10.30提案書類の履行に関する覚書
2018.3.27 社会資本整備総合交付金一括設計審査(全体設計)申請書
2018.3.31運営権対象施設(主ポンプ)の瑕疵に関する覚書、追加で5・14覚書
2018.3.31運営権対象施設(焼却設備)の瑕疵に関する覚書
2018.4.1西遠協議会の設置等に関する覚書
2018.4.1浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業協議会設置要綱
2018.4.1平成30年度利用料金収受代行業務委託料に関する覚書
2018.4.17改築実施基本協定(浜松市とウォーターシンフォニー)
2018.8.17(改築工事)打合せ議事録(西遠浄化センター、西原環境出席)
以下、この公開請求で判明したことをまとめてみます。
1 2017年8月の文書に「浜松市水道事業へのコンセッション導入の必要性」
2017年8月2日、導入可能性調査の第2回運営体制部会で上下水道部は、上下水道部内で水道コンセッションを平成34年度に開始し、大原浄水場の改築を含め、期間を25年とすることを合意したと話しています。
この発言は、7月には上下水道部内で、そのような合意がなされたということを示すものです。
今回の水道コンセッション合意に関する協議資料の開示で、上下水道部は当初、協議文書は不在と回答しましたが、市長への水道部からの説明文書、上申書などの該当する文書を求めたところ、「浜松市水道事業へのコンセッション導入の必要性」という4枚の説明資料を公開しました。資料に日付・作成組織名は無いのですが、2017年8月に上下水道部の市長への説明の文書とのことです。市長調整用の文書でしょう。
この文書からは、導入可能性調査の段階で、上下水道部がコンセッション導入を最良とみなしていたことがわかります。資料では、新たな体制(官民連携手法)を比較し、「コンセッション方式は、現在の官民連携手法の中で、最も民間の自由度が大きく、民間ノウハウや創意工夫が発揮できる方法」と結論づけています。そしてコンセッション方式のスキームを示し、導入検討で注意すべき点をあげています。
この文書は、2017年8月までに上下水道部内で水道コンセッション導入の内部合意があったことを裏付けるものです。このようにコンセション導入必要の方針の下で、可能性調査がなされたのです。
2 水道コンセッション導入の検討での注意点の内容
この文書の最後には、コンセッション導入に際しての注意点があげられています。
そこには、コンセッション事業者の運営のモニタリング(健全運営、適切な運営、維持管理、更新投資)、料金改定要件(低廉な水の供給のための料金改定要件・水準)、緊急時・災害時対応(緊急時・災害時対応の体制整備・市及び地元業者との連携方法)、地域経済への配慮(水道事業について市地域での経済循環への配慮)があげられています。
どれも重要な点です。コンセッション導入により、安全よりも利益中心の経営となります。浜松市が事業運営の人材を失い、市の水道職員数は150人台から30人台となり、モニタリングの能力も失います。緊急時に現場で対応する能力も失われます。
運営権会社は改築事業などを随意契約で子会社に委託しますから、これまでのように地域の会社にいくつにも分けての入札による契約はおこなわれません。料金も運営権会社の意向が強く働き、都合のいい料金体系がつくられます。
この注意点のなかに、水質の問題や情報開示の問題が記されていないことも問題です。
浜松市は出前講座では、コンセッションのメリットを宣伝しますが、上記の問題点に対する十分な説明はありません。
3 下水道コンセッションの導入の内部合意は2014年8月
下水道コンセッションの導入決定については、開示資料の2014年8月20日付、上下水道部による「西遠流域下水道の移管に伴う官民連携について」(市長調整用)から、この時期に内部で下水道コンセッションの合意がなされたとみることができます。
この資料では西遠処理場などの年事業費を維持管理18億円、工事費28億円、元利償還金10億円の計56億円としています。市の求めているものにコンセッションが合致すると認め、混合型コンセッション浜松方式の名で、処理場とポンプ場をコンセッションに移行するとしています。移管後の2年は包括委託とし、その後の20年間をコンセッションとすることも記されています。課題としては、事業者の選定での競争性、改築更新の仕組みづくり、リスク分担などがあげられています。2017年10月には事業契約、2018年4月からはコンセッション開始というスケジュール表も示されています。
この内部決定は、2013年度の西遠地域流域下水道事業調査業務の報告書(新日本有限責任監査法人が委託)での、2014年度での包括委託かコンセッションかの選択をおこなうという報告を受けてのものです。その後の10月には「平成26年度西遠流域下水道に係る公共施設等運営事業の実施に向けた基本計画策定業務」を新日本有限責任監査法人が受け、コンセッションの基本計画を策定することになりました。
同年12月、東京で日経新聞社クロスメディア営業局による講演会がもたれ、そこで浜松市長が「浜松市の挑戦・上下水道コンセッションによる成長戦略・行政改革」の講演をしています。この講演はこのような背景のもとになされたわけです。この会には竹中平蔵、EYの福田隆之、宮城県知事も参加しています。
西遠処理場が静岡県から浜松市に移管されたのは2016年4月からですが、その2年前から移管後の下水道のコンセッション導入が画策されていたわけです。
4 市は国交省への社会資本整備交付金申請で運営権の「売却」と説明
2018年4月に下水道でのコンセッションが始まりますが、その直前の3月27日、コンセッション導入後の改築工事に関し、市は国交省中部地方整備局に社会資本整備総合交付金一括設計審査(全体設計)申請書を出しました。その申請では、市は浜松ウォーターシンフォニーに、西遠浄化センターなどの「運営権を一定期間(20年間)売却」したと記しています。
2018年10月19日の反対市民有志との意見交換会で、上下水道部管理者は、コンセッションは運営委託方式であり、委託の一種であるとし、コンセッションを運営権の「売却」というのは間違いと語りました。しかし、政府への申請書類では、「売却」と明記しています。市民に対してもコンセッションが運営権の長期売却であることを認めるべきでしょう。
なお、経営とは利益を追求するものですが、運営は利益を追求することを意味しません。コンセッションが民間の利益追求の形態であるにもかかわらず、運営権という概念で括っていることにも問題があります。
5 第1期改築工事39億円は西原環境の請負へ
下水道コンセションの契約書では、20年の運営期間のうちに、約250億円の改築工事をおこなうことになっています。これらは西部浄化センターと浜名・阿蔵のポンプ場の改築工事費です。
社会資本整備総合交付金一括設計審査(全体設計)申請書によれば、第1期改築工事費は39億3966万円です。内訳は2018年度2億6676万円、2019年度8億9540万円、2020年度9億3390万円、2021年度9億2620万円、2022年度9億1740万円です。
この工事は西原環境が請負います。ヴェオリアは西原環境の株の50%以上を取得し、子会社にしています。2016年12月に市の公募に応じて、ヴェオリアグループは提案書を出していますが、市によれば、その書類にすでに西原環境の名前が記され、改築費を250億円とすることも記されていたといいます。
西原環境はヴェオリアグループの一員として、2017年度に開催された下水道コンセッションのアドバイザリー会議にも出席し、改築工事を請け負っていったのです。ヴェオリア系に250億円の事業が、入札なしで流れます。この事業費の55%は国から、35%が市から、つまり9割が国と市から出ます。
この250億円の積算根拠ですが、市は提案書類について、応募者の創意工夫やノウハウが含まれ、公開により応募者の競争上の地位が損なわれるため、非公開とし、隠し続けています。
なお、市の2016年11月の下水道コンセッション募集要項では、市は改築費の総額を278.9億円と想定し、それを上限とする提案を募集しています。その応募書類では、上限を第1期50億円、第2期120億円、第3期120億円、第4期120億円としています。
ウォーターシンフォニーがどのような形で改築をおこなうのかは不明です。子会社に仕事を流し、利益をあげる、その積算根拠も利権の流れも不透明です。
浜松の上水道では、日本政策投資銀行は、運営権対価を300億円とみなしています。改築工事費を1年に50億円とすれば、25年では1200億円を超えます。コンセッションを改築工事での利権の点からみると、コンセッション導入の狙いがわかります。
6 国交省には非公開を条件に提案書類を提供
2017年3月、浜松市はヴェオリアグループを下水道コンセッションの優先交渉権者としました。4月5日、国交省は市に対し、応募者の提案書類の開示を求めました。それは、社会資本整備総合交付金等の財政予算措置検討のための事業内容の確認のためでした。
その際、国交省は、開示文書を秘密として保持する、市の承諾なしに他の目的に利用しない、第3者への開示もしない、開示目的を達した際には速やかに破棄するという誓約を付けました(国交省「提案書類開示の依頼」)。
コンセッション事業への提案書類の概要については公表されていますが、細部については国家機密のような扱いがなされ、隠されるわけです。市はコンセッション導入において、市民に対しては、透明性の確保、見える化を宣伝しています。しかし、実態はこのように不透明で、見えないものになっているのです。それは利権の闇を隠すことになっていると思います。
7 浜松市上下水道部の言い逃れ
浜松市上下水道部は導入調査報告書の作成に関する2017年10月13日の幹事会会議で、課長は「報告書において、水道事業の現状が厳しいこと、様々な手法がある中でコンセッションが最善の選択であること、事業期間及び範囲拡大を加味した上でもコンセッション方式が望ましいことを示して欲しい。また、コンセッション方式ありきにはならないよう十分検討した上で作成してほしい」と発言しています(導入可能性調査報告書の「本編に関連する参考資料集」所収の議事録)。
この事実が明らかになると、浜松市上下水道部は、この発言は担当職員に対して行ったものと説明するようになりました。
しかし、これは「導入可能性調査の目次構成及び報告書全体の議論」のなかでの発言です。報告書作成を委託されているのは新日本監査法人です。発言は上下水道部幹部の参与と課長ら7人、事務局・作業部会担当者6人とともに、監査法人担当者7人も同席している場所でなされています。この発言は監査法人の向けての指示と見ることが妥当です。
ここでの、コンセションありきにならないようにという発言は、コンセッションありきですすめるが、それがばれないように繕うことを求めたものとみるべきでしょう。
8月の導入調査報告書作成の運営体制部会会議では、冒頭、上下水道部の主幹が「上下水道部内の協議において、本事業は平成34年度に開始すること、また、事業期間は大原浄水場の改築更新を含む25年間とすることで合意形成を図ることができた」と発言しています(同議事録)。
この発言への新聞社の取材に対し、市側は「調査の方向性を定めるものではない」と答えています。しかし、この発言は、調査の方向性を定めるものであり、この発言内容をふまえて、先にみた10月のコンセッションありきの発言が出てきたとみるべきでしょう。
導入可能性調査報告書は、内閣PFI推進室からの1億3700万円弱の補助金で作成されました。作成を委託されたのは新日本監査法人でした。その報告書は「コンセッションありき」のものでした。この導入可能性調査報告書への批判をおこなうべきです。その批判は、市による上水道での「コンセッション有効」の判断の妥当性を問うものです。それは、コンセッション導入を止める力になります。
(2019年1月20日、2月17日訂正)