浜松市情報公開資料の調査報告3

水道民営化(コンセッション)反対市民有志

 20192月、情報開示請求によって、浜松市が新日本監査法人などに委託して作成した報告書などの電子データと市上下水道部から市長に渡されたコンセッション関係資料を入手しました。開示資料は以下です。

(報告書・電子データ)

平成23年度公共下水道における包括的民間委託・公共施設等運営権活用検討業務(野村総研、2011年契約)

西遠流域下水道事業調査業務(新日本有限責任監査法人、2013年契約)

平成26年度西遠流域下水道に係る公共施設等運営事業の実施に向けた基本計画策定業務(新日本有限責任監査法人、2014年契約)

浜松市公共下水道西遠処理区公共施設等運営事業に係るアドバイザリー業務(新日本有限責任監査法人、2015年契約)

浜松市水道事業官民連携手法検討業務(東京設計事務所、2015年契約)

浜松市公共下水道処理場(西遠処理区)運営事業に係るアドバイザリー業務(公募支援)(新日本有限責任監査法人、2016年契約)

浜松市水道事業へのコンセッション導入可能性調査業務(新日本有限責任監査法人、2017年契約)、概要・報告書・参考資料集、

浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業に係るアドバイザリー業務(契約等支援)(新日本有限責任監査法人、2017年契約)

 

(上下水道部・市長文書)

2012.2.17浜松市水道事業における官民連携の検討 概要

2012.3公共下水道における包括的民間委託・公共施設等運営権活用検討業務

2012.9官民連携事業について

2012.10「浜松市水道事業官民連携検討調査報告書」の検証結果報告書(案)浜松市上下水道部部内検討会

2013.10「先導的官民連携支援事業の(国庫補助事業)の採択について」上下水道部上下水道総務課から建設消防委員会

2014.3.12西遠流域下水道(先導的官民連携支援事業)の調査報告について 上下水道総務課

2014.4.11 PPP/PFI(コンセッション方式)の活用に関する提言 産業競争力会議フォローアップ分科会(立地競争力等)浜松市長報告

2014.7.10PPP/PFI(コンセッション方式)の活用に関する提言」に関する経過報告

2014.8.20西遠流域下水道移管に伴う官民連携について 上下水道部 市長調整用

2014.10.24PPP/PFI(コンセッション方式)の活用に関する提言」に関する経過報告

2014.12.上下水道コンセッションによる成長戦略・行政改革 浜松市の挑戦(市長、日経新聞社のフォーラムでの報告)

2015.1.14 西遠流域下水道の移管に伴う新たな官民連携手法の導入について 上下水道総務課から建設消防委員会

2015.2 日経新聞市長インタビュー 回答内容

2015.10.5市長インタビュー、日経ムック「公共インフラ再生戦略PPP/PFI徹底ガイド2015(仮)」、回答内容

2016.2.16「西遠コンセッション事業に関わるVFM等について」上下水道部

2016.6.10「西遠コンセッション国税に関する課題について」上下水道部

2016.6.10「西遠コンセッション 市による利用料金収受代行に関する自治法第235条の4との整合性に関する課題について」上下水道部

2016.8.1シミュレーションの概要 上下水道部

2016.8.3水道コンセッション導入に向けた今後の取り組みについて(案)総務課

2016.9.2水道事業官民連携手法の検討結果及び今後の取り組みについて 上下水道総務課から建設消防委員会協議会

2016.9.9水道事業へのコンセッション導入に向けた新法人設立について

2016.10コンセッション事業者としての市出資法人設立の必要性について

2016.12.5今後の本市水道事業経営の検討について 上下水道総務課から建設消防委員会協議会

2017.1.18浜松市水道事業へのコンセッション導入可能性調査に係る予算流用について 上下水道総務課から建設消防委員会 

2017.3.21浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業優先交渉権者選定結果 浜松市上下水道部

2017.8.22 浜松市水道事業へのコンセッション導入の必要性

2018.4.1市長挨拶資料(浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業開始式)

2018.10. パリ講演資料「浜松市の上下水道でのコンセッション」(日本語講演内容)

 

では、これらの文書で判明する事がらをみてみます。

1 浜松市水道事業コンセッション導入可能性調査の業務組織図

浜松市水道事業へのコンセッション導入可能性調査業務(新日本有限責任監査法人(EY)、2017年契約)の参考資料集には、業務計画書や各部会での討議用資料、議事録などが含まれています。

業務計画書のなかに、業務組織計画を示す表が入っています。この表から、EYと市による検討組織が判明します。

 

2 隠される浜松市が対応すべき事項(運営体制部会)

 この可能性調査報告書の運営部会では、水道法改正をふまえ市が対応すべき事項や内閣府や厚労省への照合事項が提示され、参考資料集に収録されましたが、開示ではマスキングされました。

 部会で、市が対応すべきものとして記されていた事がらは、以下です。

厚労省には、選定事業者による運営事業での適正を期するために講じる措置内容、非常時での事業継続のための措置内容、運営事業での基盤強化、その技術的な細目、市に残る業務・義務のうち、実質的に運営権者に任せる事項の吟味・分担、市に残る給水義務でのリスク分担、給水義務と罰則との関係の厚労省への確認、運営権者による利用料金支払い請求権、運営権対価・PFI法第20条負担金を指導料金原価に含むことができるのかの調整。これらが隠され、開示されています。

 

3 隠されるコスト削減手法、地元業者ではなく協力会社への一括発注(施設部会)

 可能性調査報告書の参考資料集での施設部会での資料も、数多く、隠蔽されています。

コンセッションの効果については、たとえば、協力会社制度の項目が消されています。

契約事務の効率化では、1件当たりの作業工数、年間工事件数を削減し、発注に関する総工数が削減されることなど、具体的な内容が消されています。

民間調達による効率化としては、積算・入札をおこなわない、設計図面は大枠のみ、指示書と設計図面で協力会社に照会する、工事全件に立ち合わなくていいなどという項目が消されています。工事一括発注による管路工事での効率化の数字、たとえば、一括発注により、8.3%の経費減など、具体的な内容が消されています。83の地元業者への分割した発注ではなく、協力会社1社への一括発注による経費の削減が記されているわけです。

それは、地元業者へと分割発注をしない、つまり地元への経済還元をおこなわないことに関わる議論です。そこが隠蔽されています。

 

4 2012年、水道コンセッションでの多くの問題点を認識

 今回、上下水道部から市長に提示された文書として、浜松市上下水道部部内検討会による「「浜松市水道事業官民連携検討調査報告書」の検証結果報告書(案)」が開示されました。

 この報告書では、条件が適えばコンセッションが可能としています。しかし、課題としては以下があげられています。

内閣府の運用ガイドラインの確認、水道法と地方自治法の整合性(どちらが事業者か、どちらが給水契約を結ぶか)、指定管理者の権限、法人税負担の軽減(加速度償却は可能か・法定耐用年数より早く減価償却し、単年度損金を大きく計上)、運営権対価の処理、広域連携・海外展開(水ビジネス)、SPCとの人的交流・協議体制・事業計画や料金改定審査での基準・手順、モニタリング、災害対応・地元企業との連携、公益企業としての透明性、持株比率25%以上と持ち株制限、施設整備でのSPCとの費用分担、市職員派遣、スポンサー選定、災害時対応体制の構築、運営権対価の評価方法、水道事業ノウハウの維持、計画案・料金改定案への審査能力、利潤追求と水道事業の公益性とのバランス、市職員の技術継承システムの構築、モニタリングノウハウ、契約事項の検討、事業外地域への対応、各課の業務の存続。

 この報告書ではコンセッション導入に向け検討をすすめるとしています。また、導入によって経営基盤を拡大するために業務エリアの拡大をすすめるとしています。しかし、ここにある課題、たとえば、水道事業ノウハウの維持、計画案・料金改定案への審査能力、利潤追求と水道事業の公益性とのバランス、市職員の技術継承システムの構築などは解決したのでしょうか。

2018年度の議論では、これらの問題の多くが示されることなく、推進の宣伝がなされたのです。

 

5 市長の5つの提言(2014411日、産業競争力会議フォローアップ分科会)

 20144月、市長は産業競争力会議フォローアップ分科会のヒアリングで、5つの提言をしました。竹中や福田も参席しています。

それはコンセッション方式活用に向けて、地方公務員を運営権者に容易に派遣・転籍できる制度の構築(3年の上限の撤廃)、会計・税務処理の新規則(更新投資への減価償却費の平準化)、コンセッションでの国庫補助制度の確実な活用、先行実施の運営権者・自治体への優遇策(運営権者への法人税軽減、自治体への法人税収入の還流)、準備費用への支援制度の構築(国庫補助・地方財政措置)です。

 このような提言の後の8月、浜松市は下水道でのコンセッション導入を決めています(2014.8.20「西遠流域下水道移管に伴う官民連携について」上下水道部・市長調整用)。

 この4月の提言の検討状況は、20141024日の「「PPP/PFI(コンセッション方式)の活用に関する提言」に関する経過報告」からわかります。提言については政府内で検討をすすめられ、公務員派遣は第3セクターなら再派遣可能とされ、下水道コンセッションへの支援については、各1500万円、2000万円、3000万円の国費が出されることになりました。

 市長の201412月の日経新聞社によるフォーラムでの東京講演はこのような経過のなかでなされました。開示資料によれば、下水道、水道に導入をすすめる方向で話がなされています。竹中や福田も出席しています。

 2015年T月、このような経過で市の建設消防委員会に下水道コンセッションの説明資料が出されたのです。国からの調査の補助金についても説明されています。

 

6 国税庁との調整・改築工事費の益金逃れ

 下水道コンセッション導入にあたり課題になったのが、改築更新費用のうち国及び市の負担部分を益金と認識されないようにすることでした(20151130日のアドバイザリー業務打ち合せ議事録、報告書所収)。この部分はマスキングされています。

 開示された2016610日の「西遠コンセッション国税に関する課題について」(上下水道部)からは、その後の調整で、国税庁が、市負担分の改築額9割と運営者負担の1割の改築額のうちで事業終了後に市が負担する減価償却分を益金としない(運営権者の法人税対象としない)ということになったことがわかります。

 このように、コンセッション運営者に有利な税対策が認められたのです。

 

7 2016年、水道コンセッション導入に向け調整進む

2016年は下水道コンセッションにむけ、募集要項が示され、12月には2集団から提案書が出された年です

この年、水道部では、水道へのコンセッション導入に向け、スケジュールが立てられました(201683日「水道コンセッション導入に向けた今後の取り組みについて(案)」総務課)。同年9月には、建設消防委員会に「水道事業官民連携手法の検討結果及び今後の取り組みについて」が出されました。そこではコンセッションを改築更新工事で更なる効率化、コストの想定以上の削減、付帯事業・任意事業による利益拡大などをあげ、コンセッション導入を提示しています。11月にも文書がだされ、内閣府の支援措置を受ける旨が記されています。20183月には導入の可否を決めるというスケジュールも記されています。内閣府から13700億円の補助金を受けての導入可能性調査が始まるわけです。

また、コンセッション導入に向けて新法人の設立も計画されました。そこでは、市は51%を出資するとされています。それにより、災害対応、職員派遣などの問題を解決しようとしたようですが、この計画は無くなりました。

導入可能性調査がすすむなか、20178月までに上下水道部内での合意ができました。822日、水道部から市長に「浜松市水道事業へのコンセッション導入の必要性」という文書が出されます。この段階で、水道部・市長の間で、コンセッション導入が決定されたとみることができます。

 

8 市長のパリでの講演 

 201810月、浜松市長はパリで開催された国際インフラフォーラムで講演しました。その日本語の講演用原稿が開示されました。講演では水道のコンセッション25年で改築更新投資額が約1450億円になると数字をあげています。講演は、浜松の水道インフラに国際投資を誘うものでした。この講演では課題として、管路を包括的に委託する方法、災害等発生時の事業維持などもあげています。

 

 このように市長は2011年から率先してコンセッションをすすめてきましたが、反対の声が高まるなか、20191月末、当面延期すると語りました。 
                          (2019220日)