浜松市情報公開文書分析4

 

2019年3月、浜松市上下水道部の議事録(2017年度分・コンセッション関係部分)を情報開示でみた。以下、この情報開示で明らかになったことを記す。

 

●浜松市上下水道事業経営アドバイザリー会議の議事録から

 浜松市はこれまでの浜松市上下水道事業経営問題検討委員会に変え、2017年から浜松市上下水道事業経営アドバイザリー会議を置いた。この会議の主な議題は水道へのコンセッション導入だった。今回、2017年8月から20183月まで、6回分の議事録が公開された。議事録を読むと、コンセッションへの批判・疑問の意見が数多く出たことがわかる。

主なものをあげてみよう。それらに浜松市側は十分に答えていない。意見を出させ、議論をおこなったとするアリバイの会議とみることができる。

 

@2017.8.10 アドバイザー会議

水道事業のコンセッション方式を導入し、管路の維持管理を民間事業者に任せる場合、維持管理は確実に実施されるのか

運営権を担保とした民間事業者による資金調達は、市より有利な条件で借り入れができるのか

西遠コンセションでは、優先的交渉権者を選定する段階でVFMの検証はどのようにおこなわれたのか。その評価を客観的に担保する仕組みはあるのか

モニタリングで市はどれくらい自前で人材を確保できるのか

民間業者が運営すると採算の取れない水道の田舎はどうなるのか、市の職員がタンクローリーですぐに駆けつけてくれたが、民間業者になるとそのような対応をとれなくなるのでは。

 

A2017.10.23 アドバイザー会議

アセットマネジメントでの見通しで61億円とあるが、根拠がよくわからない。

今後投資額が足りないから民営化という話には、一足飛びにはいかない。まずは市の体制でどうやって対応できるのか考えるべき。

技術継承が困難になるほど職員数を減らすというのは、コンセッションありきと捉えられかねないという懸念がある。

民間にすると公益ではなく利益追求になる。一番心配するのは手抜き。

これまでの説明の仕方が荒っぽいと思う。民営化反対論者ではないが、納得できる説明がいただけていない。

資料にある3点だけが水道事業が抱える課題といえばそうではなく、コンセッションに結び付けるのに可能な課題、コンセッションをやればある程度解決するであろうという方向性を感じせせるようなものをあげている。

民間事業者に頼むと魔法の杖を持っていて凄いウルトラCが出てきそうな感じを受ける。一足飛びにコンセッションにするとバラ色になるみたいな話にはしない方が良さそう。

 

B2017.12.18 アドバイザー会議

民間業者に委託した場合、収益性を考えてまだ使えると判断し、老朽化した施設を放置することも考えられる。

直営では絶対に無理だからコンセッションしかない、というより、直営の可能性もゼロではなく、代替手段としてコンセッションを並列で議論できるような印象。

水道事業も、想定できなかったことや想定していたが十分に対応できなかったことがあれば市が責任を取るべき。民間だからリスクが大きくなったという事があり得ない仕組みを考えておく必要がある。

市民や委員が一番心配するのが、安全・安心だと思うので、コンセッション方式について具体的な検討をすすめて、不安を解消し、リスクが内在化しないような仕組みを作っていく必要がある。

 

C2018.2.15 アドバイザー会議

(管路付コンセッション) この資料は、ミスリーディング、単純集計に過ぎない。今のスケジュールでは拙速感がある。

地元との連携方法に関する設問があるので、ここを前提に対応可能な業務範囲を訊くべきだったと思う。公平に訊いているようにみえながら、何も実態がわからない。

緊急時の対応が非常に重要となる。実際に対応してもらえるのか、どこまで保障されるのか疑問である。

(粉飾決算)隠そうと思ったら隠せる。経営体制をオーバーテイクしていく体制を整える方がよい。

管路を外したらVFMはほとんど出ないと思う。

未償却相当額を市が買い取るという手法もあり、とあるが、そんなことができるのか。市の資産に手を加えたものも市の資産であり、それを市が買い取るということに疑問がある。

海外再公営化の事例報告についてはいつになるのか。早い時期に要望してもの。再公営化が主流ではないにしても、その事例を分析することは重要である。

 

D2018.2.19 アドバイザー会議

(料金)計算式により、一括で計算してしまうと、甘い部分もあるのではないか。

フランスの調査については時点間の公営・民営の事業対数の比較はあまり重要ではなく、経営主体の変化についてどういうトレンドだったのか知りたい。

 

E2018.3.30 アドバイザー会議

(VFM)コンセッション管路ありの場合でも、3〜4%という結果で非常に小さいと感じる。

VFMの積算根拠が示されていない。第三者と秘密保持契約を締結して、相当信用度がある旨を証明してもらうべき。

市からの委託であれば、完全な第三者とはいいきれない。これ以外の数字はありえないというほどの客観性があるかどうかについては、留保する必要がある。

スキーム案で浜松市と運営権者の間に「更新投資等負担金」とあるが、更新投資についてどういう負担金を積むのか、もう少し説明してほしい。

緊急時だけ地元事業者を活用するという事になると、もうからない仕事だけ地元の事業者に押し付けられるという事にもなりかねない。地元の事業者も収益をあげていかないといけないので、その部分も含めて条件を定めないと長続きしない。

(モニタリング)水道では日本下水道事業団に代わるような組織はあるのか。

やれるところがないのでは結局形だけになる。

日常的なモニタリングは市がやるべきである。

復旧工事を運営権者の負担にすると復旧工事を躊躇しないか、不安がある。

事業期間の25年で、市にとって、いつ頃どれくらいのコストが発生するかわかるようなグラフを見せてほしい。

 

●コンセッション導入の了承なきアドバイザー会議

以上が、会議録での主な批判・疑問であるが、会議録には、コンセション導入への承認合意の記事はない。会議での批判に市側が十分に答えているかといえば、そうではない。意見は聞き置かれたにすぎない。

 会議での論点をまとめてみよう。

 

@ 委員に、納得できる説明がない、全員が納得できる状況をつくるのは難しい、コンセッションに結び付けるものをあげていると言われても、市はご理解をというだけでまともに説明していない。技術職員を減らすことでコンセッションありきが誘導されているとも指摘された。

A コンセッション、民間事業者に頼むと魔法の杖のようという批判には、何も答えない。資料提示の仕方が、ミスリーディング、拙速という批判まで出たが、市はたたき台であるとすりかえた。

B VFMの積算根拠について、市は優先的交渉権者の選定での支障になるとして示さなかった。新日本監査法人が作成し、市が検証したとし、第三者に検証させるべきという指摘に応じなかった。

C SPC(特別目的会社)については、出資割合、役員派遣、職員派遣について、確定したものを説明できなかった。市は民間事業者の創意工夫で、税金や配当を考慮しても事業費は圧縮できるとするが、その根拠はない。

D 水道コンセッションでは、市は、下水道ではモニタリングを下水道事業団がおこなうが、水道ではそのような団体はないと答えた。市は仕組みを考えると答えるしかできなかった。

E 市は水道料金の計算式が複雑なものになることも認めた。地元業者との連携については、市は検討するとし、具体案は示していない。採算が取れない周辺地での対策は示されていない。緊急時への対応について十分な説明がない。

F 「更新投資等負担金」の名で、コンセッション期間中に償却できない部分を市が買い取るやり方への疑問に、答えていない。その財源については検討するとするのみだった。

G 海外での再公営化については、数をあげて少ないと示すものであり、再公営化という時代の動きについてはふれない説明だった。

 

 このようにアドバイザー会議での批判の声は強いものだった。市はその声に耳を傾けることなく、2018年度中のコンセッション導入をすすめていこうとしたのである。

 コンセッション、民間業者への運営権の売却を「魔法の杖」のように宣伝する市側の姿勢は問題だらけのものだった。

 

  大原浄水場改築工事をめぐる議論(会議録による)

導入可能性調査報告書・参考資料集の議事録からは、2017年8月に市内部での水道コンセッション導入の合意がなされたとみられる。市の推進の姿勢は、2017年4月の導入可能性調査の第1回協議での総務課のつぎの発言、VFMが出ること、コスト削減ができることなど、効果・メリットを示し、議会の判断を求めたいとする発言にあらわれている。

同年、8月18日の大原浄水場の改築工事等の協議では、平成34年度、事業期間を25年とし、事業内容に大原浄水場を含むと示され、その大原浄水場のスケジュールの議論が始まった。大原浄水場の工事は3期とされ、更新費用は185億円とされた。

 2017年10月24日の「水道コンセッション10.27改築WGプレ打合せ(結果)」からは、協議により、H34(2022)からH58(2046)年の25年で、大原1期、2期、常光と大原の構築物の工事をおこなうという原案が決まった。その後の協議で、改築時期は第1期平成40(2028)から45年、第2期平成46年から51年(2038)とされ、構築物工事はH53から58(2046)の6年となったとみられる。

 2022年から46年までのコンセッション期間中に3期分を除く工事が終わることにされた。ここで重要なことは、その費用の9割は国と市が出し、減価償却できない部分は市が「更新投資等負担金」の名で買い取るということである。

水道のコンセッション25年の管路・施設などの工事費は1450億円とされる。

ここに、水道インフラへの民間資本の参入推進の理由がある。一括発注工事で利益をあげ、コンセッション終了と共に更新投資等負担金をえることもできるのである。

 

●コンセッション方式の施設・管路工事の問題

 改築工事については、前回、報告したが、ここでもう少しこまかくみておこう。

 浜松市の場合、行革により、人員削減がすすめられ、人件費削減による利益は見込めない。それではどこで利益をあげるのかといえば、施設・管路の工事である。

 コンセッションでは、下水道でのヴェオリアグループの西原環境への工事発注のように、協力企業への一括発注がなされる。SPCによる積算や入札はおこなわれない。設計図面は大枠でいいし、工事全件に立ち会うことはない。入札や工事の作業が簡略化され、一括発注で工事件数も削減される。協力企業との契約は長期間に及び、直営子会社化もすすむ。

EYの資料によれば、コンセッションにすれば、管路工事では工事価格が7.5%減少、施設工事では8.5%減少するとされる。また、コンセッションにより、調達期間の短縮、事業のスピードアップ、発注事務コスト減、直営子会社などの協力会社制度の導入がなされるという。

 このような議論からは、地元の水道企業への受注は激減することが予想される。導入可能性調査の参考資料集での施設工事関係資料のデータの多くがマスキングされた。それは、コンセッション方式にすれば、地元企業への入札はおこなわれず、協力会社への一括発注がなされることが判明し、地元企業からの反発が起きることを想定したからであろう。

 管路ありコンセッション導入で3から4%のVFMの主要根拠は、この施設工事での協力会社導入にあるといえるだろう。

 

●ヒト・モノ・カネ・サービスの捉え方

コンセッションを推進するものたちは、ヒトでは民間人材による技術・マネジメント、請負会社の育成(協力企業)、モノでは効率的・効果的な老朽化対策、カネでは、域外海外からの出資・支援、遊休地・上部空間の有効活用、民間調達による合理化、事業費の圧縮・人件費削減、サービスでは事業実施のスピードアップ、品質向上、環境負荷の低減などをあげる。リスク分担・管理の最適化するという。

 しかしそれは市民にとっては、公共事業としての水道が民営化され、公的事業能力を失う、地域の企業に仕事がいかない、施設工事はぎりぎりまで後回しにする、海外から資本が調達され利益が海外に流出する、グローバル企業による支配が強化される、合理化と労働者の権利の剥奪がすすむ、情報がさらに不公開となる、利益がなければ撤退するという問題をはらむものである。           (T)

 

今回の公開文書は以下。

下水道

H29.4.12西遠コンセッションに関する打合せ(部内)議事概要

H29.5.30浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業に係る事務規定に関する打合せ(打ち合せ議事概要)

H29.6.5浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業に係る提案の履行に関する打ち合せ(打ち合せ議事概要)

H29.6.13浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業に係る事務規定に関する打合せ(打ち合せ議事概要)

H29.6.13浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業第三者モニタリング打合せ(第1回)(打ち合せ議事概要)

H29.6.26浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業第三者モニタリング打合せ(第2回)(打ち合せ議事概要)

H29.6.30浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業に係る事務規定に関する打合せ(打ち合せ議事概要)

H29.8.9浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業第三者モニタリング打合せ(第3回)(打ち合せ議事概要)

H29.9.7浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業第三者モニタリング打合せ(JS見積についての部内協議)(打ち合せ議事概要)

H29.9.19西遠コンセッション利用料金収受代行業務委託契約に係る平成30年度委託料の件(各種打合議事録)

H29.9.26浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業第三者モニタリング打合せ(第4回)(打ち合せ議事概要)

H29.10.11浜松市文書規則の保存年数の起算について(打合議事録)

H29.11.13西遠コンセッション事務取扱要綱について(打合記録)

H29.11.22浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業セルフモニタリングに関する実務者協議(打ち合わせ議事概要)

H29.12.12浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業西遠協議会に関する総務課協議(打ち合わせ議事概要)

H29.12.26西遠コンセッション事業開始後の市側体制について(打合記録)

H30.1.26西遠コンセッション部内打合せ(打合記録)

H30.2.22浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業モニタリング説明会(打ち合せ議事概要)

上水道

H29.4.17浜松市水道事業へのコンセッション導入可能性調査業務議事録 第1回協議

H29.8.10 H29年度浜松市上下水道事業経営アドバイザー会議議事要旨

H29.8.18浜松市水道事業へのコンセッション導入可能性調査業務議事録 大原浄水場改築計画等協議

H29.9.5浜松市水道事業へのコンセッション導入可能性調査業務議事録 大原浄水場改築計画等協議

H29.9.13浜松市水道事業へのコンセッション導入可能性調査業務議事録 大原浄水場改築計画等協議

H29.10.2「水道コンセッション委託調査」管路の試掘について

H29.10.13浜松市水道事業へのコンセッション導入可能性調査業務議事録 大原浄水場改築計画等協議

H29.10.23 H29年度浜松市上下水道事業経営アドバイザー会議議事要旨

H29.10.24水道コンセッション10.27改築WGプレ打合せ(結果)

H29.10.27浜松市水道事業へのコンセッション導入可能性調査業務議事録 大原浄水場改築計画等協議

H29.11.10浜松市水道事業へのコンセッション導入可能性調査業務議事録 大原浄水場改築計画等協議

H29.12.18 H29年度浜松市上下水道事業経営アドバイザー会議議事要旨

H30.2.15 H29年度浜松市上下水道事業経営アドバイザー会議議事要旨

H30.2.19 H29年度浜松市上下水道事業経営アドバイザー会議議事要旨

H30.3.30 H29年度浜松市上下水道事業経営アドバイザー会議議事要旨