12.12 欧州の水道公営化をみる旅・報告会

2019年12月12日、浜松市内で、欧州の水道公営化をみる旅・報告会がもたれた。報告会では旅の参加者が、フランスとイギリスでの調査の概要を話した。

報告で示された主な内容は、水が人権である。民営化により、料金は高くなり、設備への投資はしなくなる。罰金の方が安いため設備投資しない。民営化により、税対策のために負債機構をつくり、投資会社や株主には配当を出す。投資会社が民営化企業を支配する。グループ会社への下請けの金額が、妥当なものかを確かめることが難しい。他方、水の公営化の動きが高まり、水の民営化を違法とした国もある、パリの水道公営企業オーデパリは1200か所の水飲み場をつくり、無料で飲み水を提供している。コンセッションは隠れた民営化である。公営化しても民営企業のつくったソフトに特許があり、使用料をとられたため、独自システムを作成した。水の民主的な管理が課題となっている、などだった。

水の民営化は海外からの投資の呼び寄せであり、水のインフラを利益の対象とするものである。民営化にあたっての美辞麗句にだまされてはならない。   (T)


欧州の水道再公営化を見る旅に参加して

119日から17日まで、パリ、ロンドンを訪ねる旅に参加した。印象に残ったものを書き留めておく。

トランスナショナル研究所の岸本聡子さんの話

水の問題は拡大し、結果的に新自由主義に行き着いた。経済、環境、労働を変えていく。水道、労働問題だけが問題ではないが突破口が必要である。PPPPFIは労働者を切る。災害で問題が生じたとき、不確定な要素が入り込み責任問題で裁判になるが、裁判では企業の方が人材という点で圧倒的に強い。

パリは再公営化して10年になる。「オー・デ・パリ」は21世紀型の企業であり、環境問題や水源の保護にも力を入れている。水は人権であり、貧しい人や家庭のない人にも必要である。パリには参加型予算というものがある。パリの予算の1%(約99億円)を市民が直接予算作りをする。この制度を使って1200ヵ所の水飲み場を作り、無料で飲み水を提供している。オー・デ・パリの水は安くておいしい。

イギリスはチリ、マレーシアと同じように完全民営化である。料金は高く、投資はしない、漏水率は2530%である。罰金を払うが修繕はしない。修繕費よりも罰金の方が安いからである。借金ゼロで始まった事業が28年間で7.4兆円の借金を作った。必要のない債務を借りることで税金を逃れていた。

労働党は今夏のレポートで自治体サービスを民主化する、21世紀のインソーシング計画を発表した。20年間コスト削減のためアウトソーシングしてきたが、コストは逆にあがった。計画は契約の切れるものから順に公営化していくというものである。自治体でそれができない場合は、アウトソーシングの方が住民のためになることを証明しなければならないという強制力の強いものであった。日本と逆である。

デモクラティック・ソーシャリズムと言われている新しいソーシャリズムを作ろうという動きが強まっている。民主主義を中心においた透明性の高い新しいソーシャリズムである。多くの人達がイギリスを超えて全世界から集まってきている。

 

Henri Bousque(CGT)

1983年から水の仕事をしていて60歳になる。技術畑の人間で管きょに携わっている。

1985年、シラクが市長の時民営化された。浄水と排水を民間に任せることにした。スエズ社に左岸、ヴェオリア社に右岸を任せた。民営化されたとき何が起こったか注視する必要がある。身分規定、給与、年金、労働条件、従業員数を見なければならない。私や仲間はヴェオリアに勤めていて検針と請求書作成をやっていたが、急にヴェオリアが排水もやることになり、全く知らない仕事を突然押しつけられた。管きょ、貯水池をやれと急に言われた。すぐにストを打ち公務員の移転、採用はどうなっているか詰めた。当時は公務員が一時的に民間企業に出向する法的仕組みはなかったが、シラクが法的整備をして可能になった。私たちCGT 1985年から2010年までパリ市から出向した人、新たに雇用され劣悪な条件の人の労働条件が私たちの労働条件に近づくようにずっと闘い続けた。最終的に統一されたのは再公営化された2010年だった。

10年前再公営化されて喜んだが着地してみれば嬉しいことばかりではない。今でも民営化しようとする人達も多くいる。再公営化したときヴェオリアは管理能力の高い人を公社へ行かせないようにしたため大変苦労したがそれは乗り越えた。ITソフトはヴェオリアが持っているものを使っていたので、公社が使うためには新たなライセンス契約をヴェオリアと結ばざるを得なかった。2006年から遠隔管理システムを使っていた。私たちは改修して使うことができると思ったが、アンテナの中に小さなソフトでヴェオリアが特許を持っていて、使わないと検針できないシステムになっている。2016年公社が新しいシステムを開発し取り付ける作業は今でも続いている。

 

We own it      Catさんの話

公共のものを取り戻す運動で、2006年から動き始め2013年に設立された。民営化されていたバス、電車が公共交通として機能していないことを痛感していた。英国は保守的な国でサッチャーのやり方を普及させた国だが公的所有が支持されているのも事実である。民営化を成功と思っていない国民が公的所有を支持しているのも事実である。英国や世界で民営化が経済的にも社会的にも機能していない証拠は山のようにある。TNIの調査、グリニッジ大学の調査等、何度も証明してきている。

私たちWe own itは市民組織で、草の根の人々に情報を伝えるのが役割である。TNCUNITE等多くの組合と一緒に仕事をしている。いろいろな人と力を合わせて運動することが重要だと考えている。私たちの活動は、研究機関が出しているものを読む時間がない人のために、分かり易く発信することが重要であり、一方で進行する民営化と闘うことも重要だと考えている。

今まで4つの具体的な勝利があった。土地投棄機関の民営化STOPNHS医療保険の医師派遣団体の民営化STOP、刑務所猶予矯正の民営化全国的にSTOP、東海岸鉄道を公営に戻した。これだけの成果があるがわずか5名で、メールを主に使って活動いる。

ここからは水のことを話します。

1989年英国は民営化しました。契約でなく資産を完全に売却しました。スコットランドは民衆の運動で公営が保たれました。北アイルランドも公営です。ウェールズは非営利の協同組合で経営されています。この25年間で債務ゼロだったものが56ビリオンポンド(約6.7兆円)の債務を抱え、それが投資家へ回りました。水の漏洩率は2530%という高い率。川や海の汚染はすすみ、泳げない。水をきれいにすることに投資をしない結果で環境を破壊している。

現在の労働党の党首コービンは公営に戻す公約を掲げている。メディアは民営化の方がいいと言えなくなっている。しかし、公的所有に戻すにはあまりにも高すぎる。既得権益のある協会は試算を出して住民を怖がらせる。水の企業を買い取るには90ビリオンポンド(約108兆円)必要だといっている。水公社の価格、市場価格の査定がおかしい。水の民間企業が投資した金額14.5ビリオンポンド(17400億円)というのが現実的価格であると思われる。どうしてこのような試算を既得権益団体が出すか。公的所有はこんなに高くつき、怖がらせ、やめた方がよいという世論を作り出そうとしている。公的所有を支持する人の割合を減らそうとしている。

CBI経団連、ビジネス協会も同様の試算を出している。水、電気、鉄道、郵便を公的に戻すためには196ビリオンポンド(約235200億円)、市民を怖がらせるために試算を出し、保守党にも使われている。コービンのいうことを全部やれば1.2トリオンポンドが必要だと膨らませる。労働党政策には金がかかるということを刷り込ませるためのキャンペーンである。

私たちは、こうした数値に対抗するために、水では毎年1.5ビリオンポンド(1800億円)節約できることを示している。そのお金で水道を買い取ればよい。他の部門でも同じことができ、ビリオン単位のお金が節約できるはずである。公的にして長期にわたり買収していくビジョンを訴えている。

英国の民営水道はあまりにも酷い実体である。経済的にも道徳的にも間違っていると自信を持って言いたい。

 

以上3人の語ってくれたことを書き留めた。今回の旅では「水道民営化に反対する」裏付けがえられた。私たちの目から見れば、理想的と思われたパリの水道事業ではいまも闘いが続いていた。英国のWe own itのディレクターのキャットさんは若い女性であった。人数が少なくても工夫によって権力と闘っていけることを確認できた。岸本さんの「水道問題は新自由主義を破る突破口に成り得る」という言葉に力を得た。             (池)