無人駅の芸術祭・「黒いオッパイ」
2020年3月、大井川鉄道無人駅を会場に「無人駅の芸術祭・大井川」が開催された。
神尾駅には、ナカムラマサシの「黒いオッパイ」が展示された。黒い乳房を継承した幕の中には、赤い笹舟がおかれている。赤い笹舟は欲望の暴力によって生を奪われた者たちの魂を乗せるオブジェである。
大井川鉄道は上流のダム建設に為に付設され、道路も拡張された。とくに1930年代には大井川で水力の電源開発工事が盛んにおこなわれた。日本人の労働者に加え、湯山・大井川・大間の各発電工事では、それぞれ2000人以上の朝鮮人が集められた。その後、戦時に作られた久野脇の発電工事では大倉土木や間組により、朝鮮半島から2000人を超える強制連行があり、逃亡者も増加した。これらの10年余の工事での朝鮮人数は大井川鉄道工事を含めば、のべ1万人となり、導水用に掘られたトンネルは30キロメートルに及ぶ。
ナカムラの「黒いオッパイ」はそのような歴史を知る扉であり、鎮魂の祈りでもある。そして暴力批判の思想と新時代への意思表示の場である。
その現場で、オブジェの声を聞きながら、「赤い笹舟」の詩を爪弾き、工事用の廃品を寄せ集め、アリランの碑を組立た。 (竹)