共 同 声 明

                                   2020年7月14 

産業遺産情報センターでの強制労働否定の展示に抗議し、強制労働被害の実態やその証言の展示を求める

 日本の安倍政権が官邸主導で推進した「明治日本の産業革命遺産」のユネスコ世界遺産への登録は、日本の明治期の産業近代化だけを賛美し、過去の侵略戦争とその下での強制労働の歴史を排除するものであった。この登録推進は、平和に向けて世界の人民の知的精神的連帯を進めるというユネスコ憲章の精神に反するものであり、また、強制労働被害者の存在を無視するものであることから、国内外で強い批判を受けることになった。ユネスコの諮問機関イコモスも「歴史の全貌を記述すべき」と勧告した。

 2015年の世界遺産登録にあたり、日本政府は「(1940年代に)その意に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいた」「(第2次世界大戦中に)徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる」「インフォメーションセンターの設置など、犠牲者を記憶にとどめるために必要な措置を説明戦略に盛り込む」と約束した。

国際会議で、意に反する連行と労働の存在に言及し、犠牲者を記憶するとしたわけであり、換言すれば、強制連行・強制労働を認知し、その犠牲者を記憶する展示をおこなうと約束したのである。

しかしその直後、日本政府はこの文言は「強制労働に当たらない」と強制労働を否認した。さらに政府によるユネスコへの「保全状況報告書」(2017年)では「日本の産業を支えた朝鮮半島からの大量の労働者がいた」と表現し、「その意に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた」という表現から認識を大きく後退させた。

また、日本政府と共に登録を推進した産業遺産国民会議は、端島(軍艦島)をテーマに「軍艦島は地獄島ではない」とする宣伝を始め、端島では朝鮮人や中国人の強制労働はなかったと主張するに至った。この強制労働否定の宣伝を産業遺産国民会議専務理事として担ってきたのが、明治産業革命遺産の世界遺産登録を推進してきた加藤康子氏であり、加藤氏は内閣官房参与としても活動した。日本政府はこの産業遺産国民会議に「朝鮮人労働者を含む労働者に関する情報収集」などを委託したが、その報告書には強制労働否定の意図がみられ、強制労働被害者の証言が収集されることはなかった。

20206月に一般公開された産業遺産情報センターはこのような日本政府による強制労働の歴史否定の動きの結果であり、同センター長になったのは加藤康子氏である。マスコミ報道などによればこのセンターの端島炭鉱展示での元島民の証言は、端島は仲良しのコミュニティであり、民族差別も強制労働もなかったという形でまとめられている。強制労働被害者の証言の間違いは指摘するが、強制労働被害の証言そのものの展示はない。産業遺産情報センターの展示は強制労働の歴史を否定するものである。

日本政府は明治産業遺産登録を通じて戦時の強制労働の歴史を否定するに至った。しかし、そのような行為は、世界の人民の知的精神的連帯を進めることによる平和の形成というユネスコの精神に真っ向から対立するものである。また、労働を強制された被害者の尊厳を再び侵すものであり、許されざる行為である。強制労働の歴史を否定する行為は今すぐ改めるべきである。その歴史の清算なくして東アジアの友好と平和はないことを自覚すべきである。

われわれは、産業遺産情報センターでの強制労働否定の展示に抗議し、日本政府が強制労働の存在を認め、強制労働被害の実態やその証言を展示するよう求める。日本政府は世界遺産登録での国際的な約束を守るべきである。

また日本政府が関係者間の継続的な対話を促す」というユネスコ世界遺産委員会決議(2018年)をふまえ、労働被害者の体や門家などと対話し、産業遺産情報センターを東アジア共同の記憶センタとしていくことを提案する。

強制動員問題解決と過去清算のための共同行動ほか日韓の市民団体