PFAS講演会参加記

 PFAS汚染に関する講演会があり、参加した。

2024年1月13日、静岡市の清水テルサで京都大学名誉教授の小泉昭夫氏を招いてPFASについての講演会があった。浜松から3人で参加した。

 PFASによる環境汚染の治療には医学的対応とともに社会的処方が必要である。「汚染源の特定と除染」、「基地をなくす」、「企業に社会的責任を負わせる」などが社会的処方になる。米国ではデュポンは和解に応じているが、日本の企業は全く責任を取ろうとしていない。

PFASは体内に長く蓄積され、腎臓がんや肝障害、胎児への悪影響などをおこすことが知られている。飲料水基準が米国では2023年3月、PFOS、PFOAそれぞれ4ng/L以下に強められたことに対して日本ではPFOS+PFOAで50ng/Lである(ヨーロッパ基準に比べても60倍以上緩い)。日本も米国並みの基準にするべきである。

人体に与える影響を調べるには血液検査が有効であるが日本では公的機関のPFASに対する検査は進んでいない。日本は世界から遅れている。そして、国や自治体は住民が要望しない限り動かない。横のつながりを大切にしながら住民が国や自治体を動かしていく必要がある。

PFASの浜松市出前講座

2月22日、曳馬協働センターにおいて、浜松市、環境保全課による出前講座があり参加した。報道関係者、市会議員、地元の自治会長なども参加していた。

PFAS は5000種類の有機フッ素化合物の総称である。そのうちPFOS、PFOAは国の第一種特定化学物質に指定されており、「難分解性、高蓄積性、人又は捕食動物への長期毒性がある」と述べられている。PFOS、PFOAは衣料品やテーブルクロス、車のコーティング、泡消火剤、テフロン、フローリング材、食品包装紙等私たちの身近で大変多く使われている物質である。
 なお、当日配布された資料の中でWHOに関する事項に気になる事柄があった。資料では、「WHOは科学的資料が少ないため毒性は疑わしいと言っている」ような記述になっていた。2023年12月3日東京新聞によると、WHOはPFOSの発がん性について「可能性あり」から「発がん性がある」と注意を強め、PFOAに関しても「可能性あり」に指定した。大変毒性の強い物質である。

説明の後、20分間、質問の時間が設けられた。伊佐地川の近くに住む女性が「私は伊佐地川の近くに住んでおり、簡易水道の水を飲んでいた。市の調査でPFASに汚染されていたことが分かった。長い間、国も自治体も何もしてくれなかった。血液検査をして欲しい」と発言した。市の職員は「一つのご意見のとして伺っておきます。血液検査はする予定はありません」と答えた。
 日本のPFASの問題について、『国や自治体は何もしない、企業は責任を全く取らない』と、発言している研究者がいる。この問題を動かすには住民が頑張るしかない。                          (池)


以下、参考資料として「東京新聞」2月4日の特報の記事を掲載する。写真は略。

アメリカ本国では「既に浄化を終えた」PFAS汚染 在日米軍基地では調査を制限 日本政府はいつ住民を守るのか

東京新聞 2024年2月4日

 沖縄県の米軍基地周辺の河川などから検出されている高濃度の有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)。基地内が汚染源である可能性が極めて高いが、完全に特定されているわけではない。米軍の許可なしに立ち入り調査ができず、情報も公開されないからだ。一方、米国の基地では国内法に基づき、汚染浄化や情報公開が進められてきた。日本政府は住民の不安に応え、PFAS対策に本腰を入れるべきではないか。(宮畑譲、安藤恭子)

◆湧き水を使った池からPFAS検出

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場から約500メートルにある「わかたけ児童公園」。園内の池から国の暫定目標値を超えるPFASが検出され、2020年6月、立ち入り禁止になった。池は子どもたちの格好の水遊び場だったが、水源の湧き水が止められた。立ち入り禁止は解除されたものの、池は今も干上がったままだ。

PFAS汚染のため、水源の湧水が止められて干上がった「わかたけ児童公園」の池=沖縄県宜野湾市で

 PFAS問題に取り組む地元の市民団体「宜野湾ちゅら水会」の町田直美代表は「子どもを持つ親や地元農家はショックを受けている。湧き水が出る場所は地元住民の信仰の対象でもある。神聖な場所を汚された」と憤る。

 会が独自に基地近くの小学校の土壌調査を行ったところ、高濃度のPFASが検出された。町田さんは「基地は騒音、水や土の汚染など日常の平和を壊す。汚染された現状を変えるためには、立ち入り調査がまず第一歩だ」と話す。

 「問題解決には汚染源の究明や抜本的な対策が必要だ」。1月24日、PFASを巡って防衛省に木原稔防衛相を訪ね、基地への立ち入り調査や原因究明を求めた玉城デニー知事が記者団にこう述べた。

◆「日米地位協定」があるから現場を自由に調べられない

沖縄県宜野湾市の住宅街に隣接する米軍普天間基地。広い敷地に滑走路や駐機場が見える(資料写真)

 普天間飛行場や嘉手納(かでな)基地(嘉手納町など)の周辺では、高濃度のPFASが検出されている。原因は、以前から基地内で使用される泡消火剤などだと指摘されてきた。しかし、日米地位協定によって米軍の許可なしに立ち入り調査はできず、明確な汚染源の特定には至っていない。

 PFASとは、発がん性が疑われる有機フッ素化合物の総称。代表的なものとしてPFOS(ピーフォス)、PFOA(ピーフォア)が挙げられる。耐熱性に優れ、高温でも泡が壊れにくく、米軍は航空機火災時の泡消火剤などに使用してきた。人体への有害性が指摘され、世界的に規制強化が進んでいる。国は20年、PFOSとPFOAの合算値で1リットル中、50ナノグラム以下とする暫定目標値を定めた。

 同年4月には、泡消火剤約14万リットルが普天間飛行場から流れ出し、川から大量の泡が舞い上がった。この流出事故では、日米地位協定の環境補足協定に基づき、県などが基地内に立ち入り調査を行った。

 ただ、環境補足協定では「事故(漏出)が現に発生した場合」などに立ち入りの手続きを行うと定めている。機会が限られており、過去に沖縄の米軍施設に日本側の調査が入ったのは、20年の流出時を含めて2件だけ。県は米軍施設にこれまで計4回の立ち入り調査を申請したが、いずれも実現していない。

◆一部水源からの取水を停止した浄水場も

 立ち入り調査がほとんどできないまま、米軍施設周辺では高濃度のPFASが検出され続けている。

 今年1月、県が発表した、普天間、嘉手納両基地周辺などの調査結果では、46地点中33地点で国の目標値を超えた。最大濃度は普天間飛行場近くの湧き水で、目標値の44倍に上った。

 約45万人に水道水を供給する嘉手納基地近くの北谷(ちゃたん)浄水場では、目標値を超えた水源の取水を22年度からやめた。別の水源に頼ることになり、安心して使える水の確保が課題となっている。

◆基地に由来する「見えない」環境汚染

 各地で問題化するPFAS汚染。東京・多摩地区や神奈川の地下水や河川でも近年、国の暫定目標値を大幅に超える検出が相次ぎ、周辺の米軍基地との関連が指摘されてきた。

取材に応じる下嶋哲朗さん

 一方、米国では基地内の汚染源を特定しクリーンアップ(環境汚染浄化)を行う手法が確立しているという。かつてこの様子を取材したノンフィクション作家の下嶋哲朗さん=東京都八王子市=は「基地に由来する『見えない』環境汚染は、今に始まったものではない」と警告する。

 取材のきっかけは、1996年の普天間飛行場返還の日米合意。恩納村(おんなそん)の旧米軍施設で同年、有毒物質のポリ塩化ビフェニール(PCB)汚泥が大量に見つかり、「住宅地にある普天間飛行場が、浄化されないまま返還されたら大変だ」と考えた下嶋さんは、米国の実態はどうかを知ろうと98年、カリフォルニア州のマーチ空軍基地に向かった。

◆米本国では積極的な情報公開がなされていた

汚染源を水の流れから特定するためマーチ空軍基地内に設けられた観測用井戸=1998年6月撮影(下嶋さん提供)

 基地由来の汚染物質は、PCBやトリクロロエチレンなどの発がん性物質、航空用燃料、洗浄剤など多種にわたる。これらは土壌を汚染して地下水に漏れ出し、マーチ周辺でも生活用水として利用されてきた。

 ただ、沖縄の米軍基地と異なっていたのは、国内法や国防総省の計画に基づき、クリーンアップが行われていたことだ。マーチでは84年ごろから土壌調査が始まり、地下燃料貯蔵タンクや廃棄物埋設所など44カ所の汚染源を特定。取水をやめて、周辺住民に瓶詰の水を配布していた。

 地下水脈は見えず、土壌の質によって速度や深度が異なる。複雑な水の流れを「見える化」したのは、基地内外の約250カ所に設けられた観測用井戸のネットワークだ。水流が矢印で詳細に記された基地の地図を手に、下嶋さんは「住宅地へどう流れていくか一目瞭然だった」と語る。

下嶋さんが入手したマーチ空軍基地の地図。井戸の位置のほか、矢印で詳細な地下水の流れが示されている

 さらに着目したのは積極的な情報公開だった。住民への意見聴取やファクトシート(概況報告書)発行、新聞報道を通じ、汚染状況と作業の進行を広報し、安心感を与えていた。

 米国では2000年代に入り、化学工場に対する集団訴訟などで、PFASが問題化。マーチでも10年代にPFASが見つかり、既に浄化を終えたという。

◆日本政府の責任で地下水の流れを解明すべきだ

 それに比べて、日本の米軍基地はどうか。日米地位協定は米側に基地の排他的使用権を与え、原状回復義務を負わないと定める。下嶋さんは「米国で基地の浄化と情報公開はセットなのに、在日米軍基地では行われない。あまりに屈辱的だ」と述べる。

マーク空軍基地で地中から掘り出された汚染源の燃料タンク=1990年撮影(下嶋さん提供)

 米軍横田基地がある多摩地区では、住民団体が自ら血液検査に乗り出すなど、健康不安が高まっているが、国はPFOS、PFOAの健康影響について「確定的な知見はない」との立場だ。環境省の担当者は「河川などの暫定目標値はあるが、法令に基づく基準ではない。数値を超えた場合に調査や浄化を定める法の規定はない」と説明する。

 横田基地の飛行ルート下に暮らす下嶋さんは「国の動きは鈍い」とし、米軍が動かないなら、日本政府の責任で基地の周辺に井戸を掘り、地下水の流れを科学的に解明すべきだと考える。「この国はなぜ、南西諸島を要塞(ようさい)化する巨額の予算は立てても、基地と隣り合わせの住民の安全に振り向けようとしないのか。環境立法を急ぎ、基地汚染の調査と浄化を尽くし、自国民のいのちを守る。それこそが真の国防ではないか」

◆デスクメモ

 下嶋さんが取材を始めた90年代後半は京都議定書が採択された時期に当たる。それから二十数年。環境への意識は概して高まってきた。ところが米軍基地を巡る環境の問題は、ブラックボックスのままだ。日米で命の重みに差はない。日本政府は二重基準を放置していいはずがない。(北)