ウォーターPPP: 静岡の下水道事業は大丈夫?

「官民連携」「民間活力導入」「規制緩和」などの名目で、私たちのさまざまな公共の財産(コモンズ)が「民営化」されてきています。公園、文化・スポーツ施設、鉄道、郵便・・・そして水道。

★県内各自治体に「水道事業に関するPPP/PFI提案窓口」設置

こんな流れの中で静岡県や県内の各市に「水道事業に関するPPP/PFI提案窓口」が設けられました。この「窓口」は内閣府・国土交通省が推進するウォーターPPP(水道事業の管理・更新一体マネジメント方式)を自治体が進めるための受け皿作りです。住民からの批判・警戒が多いコンセッション事業へ段階的に移行するための官民連携方式です。契約期間はコンセッション方式は20年ですがPPPでは原則10年です。まずハードルを低くしてPPPを導入、10年後にコンセッションへ移行というやり方です。

(注)PPPはPublic Private Partnership(官民連携)、PFIはPrivate Finance Initiative(民間資金等活力による公共施設等の維持運営)=施設の所有権を自治体に残したまま運営を民間事業者に長期に委ねる運営方式。

★利用者・住民へのサービスより企業利益・株主への配当が優先

民営ですから企業の収益と株主への配当が最優先で利用者・住民へのサービスは二の次になります。

中南米で始まり途上国で広まった大規模な水道民営化では、相次ぐ水道料金値上げにもかかわらず安定した水供給すら行われずに失敗に終わりました。ヨーロッパでもギリシャ・ポルトガルなどでは債務危機の後に公共部門の切り捨ての一環として水道民営化が強要されましたが、住民の強い抵抗にあっています。

フランスのパリ市では1985年に水道事業が民営化されました。契約したのはグローバル水企業のヴェオリア社とスエズ社で契約期間は25年間。この間に水道料金は高騰、パリ市は水道供給の技術や経験を失っていき、水事業の情報は両社に頼らざるを得なくなりました。

水ではありませんが、先の東京オリンピックの際には多くの反対の声にもかかわらず大規模な開発が行われ、神宮外苑や日比谷公園などの樹木が伐採されました。

★浜松市では・・・

国内では、浜松市が全国に先駆けて2018年4月から下水道コンセッション(民営化)を始めました。5年経った今年、運営会社の浜松ウォーターシンフォニー(ヴェオリア・ジャパン、オリックスなど6社の合同会社)への下水道料金の支払い率が23.8%から3.8%増の27.6%に変更されます。金額にして年間約3億円が市収入から運営会社に移ることになります。30%以内なら議会を経ず市との協議だけで決められるという契約だからです。またコンセッション後当初は西部浄化センター改築工事金額の32%がヴェオリアの子会社が受注していました(後に議会で問題となり他の会社も受注)。

★世界の流れは「再公営化」!

 途上国やヨーロッパ諸国で水事業の民営化は行き詰まりをみせ、「命の水」「水は人権」の意識が広まり、再公営化が世界の流れになっています(パリ市、ニース市、バルセロナ市、など)。

水事業に限らずPFI自体も行き詰まりを見せています。イギリスではPFI事業のゼネコンが倒産しその処理に多額の税金が投入される事態を受けて、財務省が新規のPFI凍結宣言を出すに至っています(2018年)。日本でも会計検査委員会が「PFIは割高」という報告を出しています(2021年)。

★ところが日本では?

 途上国やヨーロッパでは再公営化の流れになっている水事業。そこで水メジャーが目をつけたのが日本です。豊富な水、低い漏水率、収益率の高い都市、そして何よりも民営化に積極的な政府!ちなみに、国土交通省PPPサポーターには、PFI/PPP研究会やヴェオリア・ジェネッツの人間が入っています。

 さらに政府は自治体に対して「下水道分野におけるPPP/PFI事業に対して社会資本整備総合交付金等により支援を実施」、一方で「新たな官民連携(ウォーターPPP)未導入の場合、令和9年度以降、管路改築に係る国費支援の打ち切り決定」と通達。露骨なアメとムチでPPPを進めようとしています。

★静岡県内の動き。そして静岡市では

「水道事業に関するPPP/PFI提案窓口」は全国では40以上の都道府県、静岡県内では、静岡県、静岡市の他に沼津・三島・富士・富士宮・焼津・藤枝・掛川・浜松の各市に既に設置されています。このうち富士市では3月15日の建設消防委員会でPPP導入が賛成多数で決定されました(7名中賛成6、反対1)。

 静岡市が下水道PPP推進になった場合、例えば水メジャーが応募したらどうなるでしょうか?(年間220億円もの下水道事業は水メジャーが欲しがるのでは?)浜松市の例では、市からの受注が地元企業からメジャー関連会社に移ったり、企業秘密という名で運営会社の情報も得られなくなり、そのつけは住民に回ってきます。静岡市は2021年に「水道事業は現行維持」を決定していますが、経営が悪化した場合「民間活力の導入」という甘いことばに踊らされないでしょうか?

 

補助金というアメとムチで地方自治をないがしろにする国に対して、公の財産(コモンズ)を守ることは自治を守ることです。「命の水」を守りましょう!

(静岡の水道を考える会(仮))

(参考) 内田聖子、「日本の水道をどうする!?」、コモンズ、2019.8。

岸本聡子、「水道、再び公営化!」、集英社2020.3。

 国際調査ジャーナリスト協会、「世界の<水>が支配される!」、作品社、2004.9。

 浜松市の水道民営化を考える市民ネットワーク、物価高なのに水道料金値上げ?、2024.2。