2024年11月30日強制動員真相究明ネットワークオンライン講座「強制動員・韓国大法院判決その後現状と課題」が開催された。
講座では、林宰成(弁護士)「韓国においての強制動員訴訟について」金英丸(民族問題研究所)「強制動員被害者の「人権」と「尊厳」を守るため」の講演があった。
林宰成さんは訴訟の現状をつぎのように話した。
韓国での強制動員訴訟は2000年代に提訴された第1次訴訟、2012年から15年に提訴された第2次訴訟、2018年の大法院判決後の19年から21年に提訴された第3次訴訟にわけることができる。2018年に大法院で第1次訴訟の日鉄・三菱重工に関する判決が確定した。第2次訴訟の判決は2023年末から24年初めにかけて出され、原告が勝訴した。第2次訴訟の原告は三菱重工(16人)、日本製鉄(8人)、不二越(23人)、日立造船(1人)である。第2次訴訟の判決では第1次訴訟の強制動員企業への損害賠償責任を確定するとともに消滅時効については2018年の大法院判決以後と判断した。18年判決後の第3次訴訟ではソウル中央地方法院で40件(44人)、光州地方法院15件(86人)が提訴した。
この動きの中で2023年3月に韓国政府は第3者弁済策を出し、第1訴訟の原告に強制動員支援財団を使って解決金の受け取りを求めた。2018年判決の原告15人のうち、4人が拒否すると23年7月に原告の了解もなく解決金の弁済供託を行なおうとした。しかし、韓国の司法(各地8か所の法院)はこの供託の「不受理」を決め、支援財団側の異議申し立ても棄却した。不受理の理由は損害賠償制度の趣旨や機能に反する、加害者ヘの債務免除となる、加害企業が免罪符をえるなどというものだった。司法部は供託を制止したわけである。第2次訴訟の原告に対しては解決金を受け取るかの意思確認はしたが、現時点までに支給はない。第2次訴訟の原告数が多いため、財源が不足している。
賠償金強制執行の現状をみると、第1次訴訟に関しては、三菱重工業の特許権・商標権、日鉄のPNR会社の株式に関して強制執行を求めてきた。しかし現時点で大法院は判断していない。第2次訴訟の日立造船については強制執行を防ぐために供託を行っていたためにそれを差し押さえ、損害賠償に充てることができた。これは日本造船自らの賠償ではないが、日本企業による賠償債権の弁済となる。これは例外的な事例である。韓国政府は判決を韓日関係の妨げとみなしているが、動員被害者はそれに反対し、判決を守る努力をしている。
この報告に続いて金英丸さんが原告被害者支援の活動をつぎのように示した。
2018年大法院判決は、不法な植民地支配と侵略戦争の下での反人道的不法行為を前提とする日本企業の強制動員に対する慰謝料請求権を認めたものである。それは65年体制を克服するものである。しかしこの判決を尹錫悦政権は日韓関係を悪化させるものとみなし、第3者弁済をすすめた。これは尹政権による対日「屈辱外交」であり、人権問題を債務問題に変質させ、「歴史」を「安保」と交換するものである。
これに対し市民運動は「歴史正義のための市民募金」を開始、第3者弁済策を拒否する4人を支援してきた。第3者弁済策では日本企業の謝罪や賠償はなく、解決できない。日本政府と戦犯企業は強制動員の責任から逃れることはできない。尹政権の低い支持率のひとつの理由はこの歴史問題への対応である。10月末には入院中で判断力をなくした生存原告2人の家族に圧力を加えて、解決金を送った。それは被害者の尊厳と人権を侵す行為であり、許されないものだ。大法院判決を履行させ、歴史の正義を実現させたい。
これらの講演ののち、日本製鉄訴訟と三菱重工訴訟の支援者が現状を報告した。
この講座の数日後の12月3日夜、尹大統領は「非常戒厳」を宣し、軍を国会に派遣した。しかし市民が軍と対峙し、4日未明、国会は戒厳の解除要求を議決し、尹大統領の戒厳は6時間で終わった。尹大統領はその権力を失い、尹政権のすすめた第3者弁済も終わることになるだろう。
今後も日本政府と動員企業が強制労働を認め、その責任をとることが求められることになる。動員企業は被害者・支援団体の協議に応じ、判決を履行すべきである。とくに被告の日本コークス工業(当時は三井鉱山)、北海道炭礦汽船、三菱マテリアル(三菱鉱業)、三菱重工業、住石マテリアルズ(住友鉱業)、住友金属工業、JX金属(日本鉱業)、日本製鉄、古河金属機械、DOWAホールデングス(同和鉱業)、川崎重工業、不二越、日立造船、西松建設、熊谷組、安藤・ハザマ(間組)などは率先して強制労働を認め、賠償に応じるべきである。 (竹)