強制連行期(1939〜1945年)朝鮮人強制労働現場全国一覧表 はじめに 以下は、強制連行期(1939年から1945年)の朝鮮人強制労働現場の全国一覧表である。1939年の国民徴用令公布以後、国家と企業は共同して「募集・斡旋・徴用」の名で朝鮮人を強制的に動員し各地の事業所に連行した。これらの連行先に軍人・軍属や性的奴隷としての連行先を加え、それらを朝鮮人強制労働現場とし、この一覧表を作成した。 これまで全国各地で強制連行調査がおこなわれてきた。これらの調査は真相を明らかにするとともに、国境を越えて人々が手をつなぎ、かつての強制労働の現場をあらたな平和と友好の場所へと変えていく試みでもあった。 1990年には強制連行強制労働を考える全国交流集会が名古屋でもたれた。静岡県内では静岡県の朝鮮人強制連行を記録する会ができた。県内での市民団体による調査活動がすすみ、その調査は朝鮮人強制連行真相調査団の報告書(中部東海編)の静岡県分の記事 強制連行調査をすすめるなかで、朝鮮人の連行者数・連行先は今も確定されず、調査のための連行地図などの基礎資料も不十分なままであること、強制労働は東アジア各地にわたるものであり、調査活動が県内のだけものであってはならないことなどを感じた。 真相究明にあたっての基礎資料を作成する必要があると考え、1996年に朝鮮人強制連行全国地図の作成を集中しておこない、1997年の松江での全国交流集会で公表した。 全国地図を作成するなかで、財閥関連では三井・三菱関連の連行先が多いことや地域的には北海道(アイヌモシリ)、九州北部(筑豊など)への連行が多いことを実感した。地図作成と共に全国的な調査もおこない、三菱財閥についての調査報告は過去清算を求めるソウル集会(2004年)に出し、北海道・九州北部の炭鉱などの調査報告を「在日朝鮮人史研究」に掲載し、このなかで作成した連行期の死亡者名簿を関係市民団体に提供した。 過去の清算が求められ、韓国での真相究明の動きがすすむなかで、2005年に入って未公開分の一覧表資料の再整理をおこない、「強制連行期朝鮮人強制労働現場全国一覧」のかたちでまとめた。一覧作成にあたっては、連行者名簿・行政関係史料・各地調査報告書・証言・新聞記事・自治体史などを参考にした。一覧の最後には典拠文献を示し、今後の調査の資料とした。 この全国一覧表作成作業によって、約1550箇所の強制労働現場を確認した。それ以外にも強制労働があったとみられる現場も多いが、現時点で、史資料・証言などで確認できる箇所が約1550箇所である。調査がすすめば、この数はさらに増えるだろう。強制労働先という確定はできないが、就労が確認できたところは約600、未確認地も約600箇所である。軍事基地建設では軍属の形で連行された人々も多かったが、軍人軍属関係名簿については未調査のものが多い。強制労働一覧表には連行者数については記していない。連行者数については一部の事業所で判明しているにすぎない。連行者数の明示は今後の課題である。 地域別に連行先をみると、アイヌモシリ(北海道)約210、福岡約140、沖縄約120、兵庫約90、長崎約80、神奈川約80、大阪約50などがあり、静岡・愛知・東京・山口・青森・鹿児島・長野・新潟・広島・福島などはそれぞれ約30〜40箇所である。 10万人を超える朝鮮人が連行された地帯としては、九州北部(炭鉱・軍需工場)、北海道(炭鉱鉱山・軍事基地建設)がある。また阪神(軍需工場・運輸港湾)、京浜(軍需工場・運輸港湾)などの工業地帯への連行も多かった。宇部や常磐の炭鉱地帯、各地の工業地帯や鉱山・発電工事・軍事基地建設現場などにも多くの朝鮮人が連行されている。 連行が確認できた事業所を業種別にみると、鉱山・炭鉱が約450、軍需工場が320、軍工事・飛行場が約160、土木建設(含む発電工事)が約180、運輸港湾が約150、性的奴隷が約110、軍人軍属関連が約90、地下工場建設が約50、農林関係が約20箇所である。 北炭夕張や三井三池など、財閥系の大きな炭鉱では1万人を超える連行者があったところもある。三菱鉱業は傘下の炭鉱・鉱山に6万人ほどの朝鮮人を連行したとみられる。筑豊の貝島・麻生などもそれぞれ1万人を超える連行をおこなった。発電工事や地下工場建設では2〜3千人が連行・動員されたところも多い。 戦時強制労働調査の意義・視点についてあげれば、この調査は、第1に真実の追究であり、社会的公正・正義を求めるものである。隠蔽されてきたものを明らかにすることは歴史を学ぶものだけでなく市民的課題である。今になってやっと解明する歴史的条件がそろってきたといえる。これは、真実・正義という社会的倫理の視点である。 第2に、この調査は人間の尊厳の回復、生命が尊重される社会の形成に向けての取り組みである。戦争を被害者の視点でとらえ、その尊厳を回復していくことである。これは生命・人権の視点である。 第3に、それは歴史を民衆の側からとらえなおし、民衆基層の視点から歴史認識を形成していく作業である。働くものが大切にされ、国境を越えて人間的なつながりをつくっていく作業でもある。これは国際的・階級的な視点である。 第4に、この歴史を共有する歴史認識を持ち、加害への歴史的な責任を自覚することである。それは再発の防止と和解につながる。戦時の奴隷的労働への動員の歴史をあきらかにし、その被害者への個人賠償をおこなうことは、戦争の再発を防ぐ力となるだろう。これは歴史認識をふまえての歴史的責任の視点である。 強制労働現場一覧表の作成は真相調査のための基礎作業である。この一覧表が改訂されるなかで、歴史の成果として共有され、真相究明、歴史的和解、民衆間の平和と友好にむけての資料となればと思う。 (註) 各地での調査によって強制連行が確認されているところは●印、強制連行については未だあきらかではないが朝鮮人の動員・就労が確認されているところは◎印で示してある。 典拠において、 「名簿」は連行に関する名簿の存在、 「記録」は連行や動員・就労について記された手記等の記録、 「記事」は当時の新聞記事、「調査」は調査により判明しているもの、 「協和」は中央協和会「移入朝鮮人労務者状況調」に記載のあるもの、 「厚生」は厚生省勤労局『朝鮮人労務者に関する調査』に記載があるもの、 「陸軍」は『朝鮮人陸軍軍人調査名簿』に記述があるもの、 「石炭」は石炭統制会の統計表に記載があるもの、 「統制」は日本土木建築統制組合の割当表に記載のあるもの、 「特高」は内務省警保局『特高月報』に、千葉県分の「特高」は千葉県警察部特高課史料に、 「新特高」は新潟特高史料に記載のあるもの、 「社史」「廠史」は会社史等に記述のあるもの、 「市史」「町史」「村史」「市史」区史」は市町村史等に記述のあるもの、 「割当」は「半島人各府県別割当人員表」に記載のあるもの、 「鉄鋼」は「鉄鋼関係労務充足予定計画案」に記載のあるもの、 「知事」「引継」は知事引継関係史料に記述があるもの、 「県文・市文」は県や市の保管していた文書に記載があるもの、 「国鉄」は国鉄作成の「労務者配置状況」に連行者数の記載があるもの、 「証言」は連行や就労についての証言があるもの、を示している。 詳細については地域別の参考文献を参照してほしい。 なお、市町村名は2000年時のものである。この表では北海道をアイヌモシリと表記した。 |