なあちゃんが死んだ    里 檀



     なあちゃんは三十一才で死んだ


     その知らせが来た朝、

     具合が悪いと思えないのに、

     ひどく身体が重く

     ようよう足を引きずって

電話を取ったのを覚えている

 

高校を卒業して以来、ほんの数える程しか

会っていなかったなあちゃんが、

弟と同じ国鉄の官舎に、

うちから程近いところに住んでいたことを

その時初めて知った

 

癌で、三人目の子供がお腹にいて、

ひどく小ちゃくなって、

なあちゃん

 

お母さんがわたしたち友人の弔問に

顔を背けて泣いた

     お母さんにかける言葉もなく、

     下げた頭を支える肩が腕が震えた

     お葬式では読経が続く中、

幼いあなたの娘が

     「おかあちゃーん」と

細い声で棺に呼びかけた

     会場が一瞬絹糸の雨のようにさざめいた

 

     なあちゃん

     額あじさいが咲いた

     ムラサキツユクサも咲いた

     明後日はあなたの二十二回目の命日だ

     そしてわたしは

今さらあなたの人生の一瞬に気がついた

     一九八七年に向かう夏だったのだと

    

 

(二○○九・五・三〇)

何  処  へ                里 檀

 

   布を持って、

   ぬぐいたくなった

   ひとの顔を 

   長い柄の箒を持って、

   打ちたくなった

   ひとの身体を 


   ある日

   刃のあるものを

   持ったら、

   ひとを

   切り伏すことを覚えた

   

   空を飛ぶことを覚えたら、

   ひとをたくさん

   一度に滅させるについて

   便利な方法を思いついた
 

   空から何を落とせば

   より以上の効果があるかと

   ひたすら考えた

   実験もした

   

『しかし、わたしたちは

   この先も生きていくのだから、

   わたしたちが生きられないようには

   この地を汚すわけにはいかない

そして

   建物を壊して後を片付けるのは

   非効率だから、

   ひとだけを滅させることを

   考えなくてはいけない…』

    

   どこまでいくの?

   道具を持ったわたしたちは
 

その果てに

   何を見ようというの? 

(二〇〇九・三・一八)