切り取られた空の下で
地引 浩
ギューン ギューン
ビューン
ビューン
夜が明けたばかりの
白く冷たい空気を
震わせて 響く
あれは
レールの レールの解放歌
ギューン ギューン
ビューン
ビューン
締結装置が緩解された
レールの
閉じこめられていた
ストレスが
ハンマーの打突ごとに
空中に発散される
歓喜の
歓喜の解放歌
おそらく
冬の到来に備える
遊間整正作業に違いなく
JRとは名ばかりの
下請け労働者たちの
スパイキハンマーが
レール腹部を
正確にとらえ
レールは
長尺の打楽器となって
澄んだ音色を奏でる
ガゴーン ガゴーン
バォーン バォーン
時折混じる
濁った悲鳴は
新米の仕業だろうと
レールの固有振動数を
共振させそこなった
奴の
ハンマーを握った手に残る
強烈なシビレを
オレも感じて
思わず 手をさする
そのオレは
高架下駐車場の
料金所プレハブ小屋にいて
切り取られた空を
ひたすら見上げている
14年前に追放された鉄路は
戻れそうで戻れない
距離にあって
列車の通過音や影だけを
感じながら
錆ついていく正義を
研ぎ澄まそうと
爪先立ちのまま
我らの解放歌を
口ずさむ
Kよ
地引 浩(国鉄詩人連盟)
悲しみの深さが量れるものなら
ボクは耐えることができるから
君には少しだけあげよう
もっともっと解ってほしいから
怒りの強さが計れるものなら
ボクは半分でいいから
君にも半分あげよう
もっともっと怒ってほしいから
希望の大きさが計れるものなら
ボクには失うものがないから
君にはいっぱいあげよう
もっと自信が湧いてくるから
勇気の重さが量れるものなら
ボクには仲間がいるから
君には全部あげよう
もう一度闘ってほしいから
仮面
「指導者」と顔について
顔を見せてください
あなたの顔を見せてください
やつらと握手した その日から
あなたの顔でなくなったのです
おろおろしてもいいのです
きちんと答えようとするならば
あなたの顔はどこにいったのですか
顔を見せてください
あなたの顔を見せてください
やつらと約束した その日から
あなたの顔でなくなったのです
笑えなくてもいいのです
うす汚れた仮面でないならば
あなたの顔はどこにあるのですか
顔を見せてください
あなたの顔を見せてください
やつらに土下座した その日から
あなたの顔でなくなったのです
頼りなくてもいいのです
きちんと向き合おうとするならば
あなたの顔はどこにいったのですか
(2002.7.17)
クズとゴミと人と
国労定期大会を前にして |
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地引 浩 (国鉄詩人連盟) |
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はたらくんだ ここで 地引 浩 会社やめます って ちょっとのミスでも 書かせる会社さ ここは 始末書っていうんだけどね みんな 始末書 連発してるから 会社に人なんかいなくなってしまうはずなのに はたらいているさ いつも同じようにね 給料が安いくらいで文句言うな いつやめてもらってもけっこう 始末書だって ほれ こんなに揃ってる 会社の算段 ミエミエさ ここは駅を掃除する会社 JRの子会社だよ エライさんも JRからの天下り 区長 駅長なんてゾロゾロいる 大昔は 掃除も駅の人の仕事だったけど いつのまにか ここの役目になって 安くこき使われてるのさ みんな 不平たらたらだけどね 始末書ごっこだって 天下り エライさん付きで JRからやってきた JR仕様のJR製 JR印 なんでもかんでも JR様さま さ わたしは ここに入って二年 反省文三回 始末書一度書いた あの日 ロッカーんとこに名札忘れて 始末書 書かされなかったけど かわりに クビになった JR様からの 大切な預かりもの 紛失したのは重罪だ クビで当然 わかるよな 来月いっぱいで来なくていい ってさ そんなら ここもみんなクビ JRだって 社員なんていなくなる どこで聞いたって だれに聞いたって そう言うよ 笑ってね こんなんで懲戒解雇? 聞いたことない! 所長も 副所長も アホ! みんなアホ! 重責解雇って どういうこと? 職安だって あきれ顔 さ はたらかなくては 食べていけないよ もうすぐ六十だけど 元気にはたらくさ ひとりで生きていくんだ それだけさ あきらめないよ やるだけやるさ 地域ユニオンのひとといっしょだよ そうして ここではたらくんだ はたらくんだ ここで (2003・11・12 仮処分申し立ての日に) ストライキに起つ 韓国鉄道労働組合のストライキに 地引 浩 ノッチを握る手に込める希望を キミは知っているだろうか スパイキハンマーを振り下ろす瞬間の緊張を キミはわかるだろうか 発車していく列車に敬礼する駅員の願いを キミは確かめたことがあるだろうか 人々を安全に運ぶために 鉄道員は命を懸ける 人々を正確に運ぶために 鉄道員は命をすり減らす 懸けられた命の分だけ 人々は安心して列車にのる すり減らされた命の分だけ 人々は未来に生きる 鉄道員たちは誇りを胸に 鉄道を守るストライキに起つ ストライキに起つ (2003.4.18) 腕 章 地引 浩 「警戒」という腕章をワタシはつけている 「警戒」という紺色の文字が白地に染められている イラク戦争のためだという テロを警戒するのだそうだ すると JR駅の改札に立つワタシはアメリカ軍の側にいて イラクの味方をするヤツに睨みをきかせていることになる ワタシも戦争には反対で ブッシュはひどいことをすると思っている でも 仕事なので この腕章をつけている 業務命令だからと ワタシは笑う ワタシの隣には駅の助役がいて 両腕を組んでいる 「厳戒」という腕章をワタシはつけている 「厳戒」という赤い文字が黒地に躍っている 朝鮮戦争になるからという テロを厳戒するのだそうだ だから JR駅の改札に立つワタシもアメリカ軍の命令で 朝鮮の工作員を見つけなくてはならなくなった ワタシも戦争に反対で ブッシュは戦争中毒と思っている でも 仕事なので この腕章をつけている 家族があるからと ワタシは笑う ワタシの隣には自衛隊員がいて ライフルを構えている (2003.4.17) けやきのように
−闘う闘爭団の門出に−
吹きつのる木枯しに
立ち尽くすけやきのように
上へ上へ向かう枝毎に
しなやかな確信を秘め
あなたは
涙涸らす屈辱の闇で
やがて来る春を
静かに準備する
凍てつく冬が去る
かすかな雪解けの気配
数限りない固い蕾に
やわらかな希望を秘め
あなたは
朝もやの粒子に抱かれ
春の足音に
耳を澄ます
春を呼ぶ南風に
震えしなる梢から
萌黄色の若芽たちと
耐えぬいた喜びを分かち
あなたは
木漏れ日の夏を夢見て
輝く春の陽と
歌い踊り叫ぶ
行こう 空へ
行こう 我が道を
(2001・5・14)
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