詩12
風に聞く
地引 浩
どこから来たのか
風に聞く
あっちの方さ
風は答える
あっちのどこなんだ
もう一度 聞く
どこだっていいだろ
ぶっきらぼうに 風は答える
どこだってよくないから聞くんだ
声が大きくなる
そんなのあんたの勝手さ
通り過ぎながら 風は言う
まさか あそこではないだろうな
声が震える
おいらは風 風さ
風の笑い声が遠くなっていく
(2011.8.11)
お変わりありませんか
地引 浩
みなさん お元気ですか
フクシマのみなさん お元気ですか
お変わりありませんか
コオロギさん カマキリさん
ハナバチさん キリギリスさん アキアカネさん
みなさん お元気ですか
お変わりありませんか
ミミズさん ムカデさん
アリさん ゲジゲジさん オケラさん
みなさん お元気ですか
お変わりありませんか
イモムシさん アブラムシさん
ウリバエさん ブヨさん ヤブカさん
みなさん お元気ですか
お変わりありませんか
ボウフラさん アメンボさん
イトミミズさん ナメクジさん カタツムリさん
みなさん お元気ですか
お変わりありませんか
こちらの畑のともだちは
みーんな 元気です
フクシマのみなさんを
みーんな しんぱいしています
(2011.9.29)
コンビニ砕夢
地引 浩
街角に
コンビニができた
都会の匂いが少しだけあった
いつのまにか コンビニがなくなって
ケイタイ電話屋になった
まるで予定されていたように
道沿いに
コンビニが建った
職人のトラックが何台も止まった
二、三年で コンビニでなくなって
台湾料理店になった
隣の国の庶民の味が匂った
傍に また
コンビニができた
都会の匂いはもう少しもしない
何年かして コンビニが潰れて
今度は何になるのだろう
幾人かの夢が砕けた跡に
正しくコワがる
地引 浩
「正しく コワがり
正しく 気をつけ
正しく 勤め
正しく 暮らす
そうすれば
放射能はコワくない」と
エラーイ センセイが
おっしゃった
「正しく コワがり
正しく 気をつけ
正しく 学び
正しく 遊ぶ
そうすれば
放射能だってコワくない」と
校長センセイも
おっしゃった
だけど ボクは わからない
正しくコワがるって
どういうことなのか
わからない
ボクは ボクは
おもいっきり外で遊びたい
(2012.1.22)
春とは
地引 浩
春とは
木枯らしが緩み 木々の芽が綻び
青菜が茎を伸ばし花をつけ始める頃であるならば
私が住むあたりにも
春は確かに すぐそこに来ている
きのう 私は
落葉と枯草の隙間から
緑を覗かせたフキノトウを見つけた
私は手を伸ばし 慎重に摘んだ
畑はやわらかな陽の光があふれ 静かに待っている
それは 本当に春なのか
春とは
霜柱が消え 雪が雨に変わり
裏山の雪が解け田も氷らなくなる頃であるならば
あなたが住んだあたりにも
春は確かに 遠からずやって来る
その日 あなたは
道脇の斜面の湿った土から
顔を覗かせたフキノトウを見つける
あなたは微笑み そっと触れる
里は見えない魔手に侵され すべてが汚れている
それは けっして春ではない
春とは
身体がほぐれ 心の枷が緩み
希望が膨らみ力も湧きあがる頃であるならば
われらの立つこの列島にも
春は確かに いつの日か来るだろう
そのとき かれらは
母や祖母たちの時代の
緑に輝いたカクメイを語るだろう
かれらはひざまずき 土に触れる
春は見渡すかぎりの花々と 勇気に満ちている
(2012.2.22)
むしゅ むしゅ むしゅ
地引 浩
だれのものでもない
だれのものでもない
むしゅ むしゅ むしゅ
むしゅ むしゅ むしゅ
だれのためでもない
だれのためでもない
むしゅ むしゅ むしゅ
むしゅ むしゅ むしゅ
だれのせいでもない
だれのせいでもない
むしゅ むしゅ むしゅ
むしゅ むしゅ むしゅ
だれのものでもないって
あいつらのものってことさ
むしゅ むしゅ むしゅ
むしゅ むしゅ むしゅ
だれのためでもないって
あいつらのためってことさ
むしゅ むしゅ むしゅ
むしゅ むしゅ むしゅ
だれのせいでもないって
あいつらのせいってことさ
むしゅ むしゅ むしゅ
むしゅ むしゅ むしゅ
(2011.12.31)