「小ざぶ500円」
町境にちいさな布団屋があった。
よく磨かれた木枠のガラス戸の向こうには、
私のお気に入りの品札があった。
「小ざぶ500円」ひとまわり小ぶりの座布団が
ふっくら積まれていた。
「小ざぶ、小ざぶ…」私はちょうけて
何度もその名をつぶやきながら店の前を通った。
そういえば、母の太ももに足を挟んで暖めてもらった、
あの布団の柄はこんなではなかったか。
今はもうシャッターに遮られてしまったその店の風景を、
古びたトタンの外壁の文字だけが私に語りかける。
小さな川を渡れば、「ようこそ引佐町へ」
山を下りきって、あのカーブを過ぎれば
「またどうぞ引佐町へ」
(二〇〇九・二・一四)