松虫草

        生駒孝子

           

松虫草の群生を見に行こう、との誘いに

松虫草なるものも知らぬままリュックを背負った

小高い山を登ること四十分余り

「これを山道とは言わないよ」と

年上の友人たちが涼しい顔で歩を速める

足の衰えは容赦なく実年齢を裏切るものだ

 

弾む息を呑み込み、平静を装う頂で

高くなり始めた青空に

小さな青紫のフリルが揺れている

それは旅行のパンフレットには載らないだろう

小さなさざ波

ファインダーを覗く目に気づかぬふりで

戯れている

 

友人たちの手製の弁当に舌鼓を打って二時間

展望も独占、なんという贅沢!

 

来年も会いに行こう、青空のフリルに

あなたの子どもたちは

どんな表情で私を迎えてくれるだろう