ちょっと疲れました        生駒孝子

 

 

ちょっと疲れました

確かにようやく手に入れた仕事でした

強い日差しに不似合いなリクルートスーツで

汗のにおいを気にしながら、歩いて歩いて

 

でもちょっと疲れました

アパートの階段を足を引きずって昇れば

眠ることしか許されない毎日

 

そう、ほんとはちょっとひっかかっていました

こんな小さな営業所に新入社員は七人

でも両目をつぶって喜びました

就職できたんだもの

 

私が初めて同僚と呼んだ人は

梅雨入りを待たずに

三人が会社を辞めました

 

贅沢なことですか

仕事を終えてからの

私のための時間を望むこと

 

友人と笑顔で話すこと

社会の動きに目を凝らすこと

小説の続きを読みふけること

人の痛みを想像すること

人としての権利を知ること

 

それとも何ひとつできない方が

好都合なのですか


内地人        生駒孝子

 

 

私たちは珊瑚と、

色とりどりの魚が群れ遊ぶ

沖縄の海が好き

 

琉球王朝の遺跡と

涼しげな織物に

長い歳月への想いを馳せる

 

民家の窓から漏れてくる三線の音と

熱いエイサーの踊りに心弾ませるのもいい

 

おじい、おばあと気軽に呼ばせてくれる、

その人懐こさを愛おしく抱きしめて

タイムスリップを楽しむのだ

 

しかしその観光ルートに基地は入っていない

観光立国沖縄を、つまみ食いするためだけの飛行機が

今日も那覇空港に下りていく

 

「沖縄県民以外の国民は、辺野古移設問題を

さほど重要視していない」と発言して

謝った役人に腹を立てた

しかし図星だったからではないと

胸を張れる訳でもない

 

「沖縄に基地があった」ことが

思い出話になるころには

「内地人」という呼び名も

変わっているだろうか