九月は長月          
                      生駒 孝子

 

九月は長月十日

 

肺を患った友の最後の誕生日

 

あなたに贈る物は何もなくなってしまった

 

 

だから鶴を折ろう

 

「千羽折れば願いが叶う」

 

初めて祈りを込めたひとは

 

何を願ったのだろう  

 

あなたを想う時間だけが、

 

私に許された最後の贈りもの

 

 

九月は長月

 

言霊というけれど

 

長い月という名に魂があるのなら

 

どうか永らえさせておくれ

 

鶴の願いが叶うまで


ある朝の詩              生駒孝子

 

新天竜川橋を渡る

 

大型トラックのフロントガラスは

 

シアターに早代わりする

 

 

紅く熟れた月のような太陽が

 

音もなく倍速で駆け上ってくる

 

それは私を見据えながら

 

侵食を始める

 

身じろぎもできないでいると

 

その月は突然矢を放ち、体を貫くのだ

 

 

どうしてなのか

 

ひとつの同じものでありながら

 

朝陽は朝陽でしかありえない

 

夕日は夕日という別の存在を主張するものだ

 

 

そして私はたまらず告白したくなる

 

ひとつの同じものでありながら

 

私はいったい何者なのだ