消された証言
生駒孝子
あなたは、今割ったばかりのざくろのような
痛みを見せてくれたはずだ
その痛みは、切り口からどくどくと
音を立てて私に流れ込んだだろう
それは明らかにされなければならなかった
たった一度の放送であっても
それは潰されてはならないものだった
唯一つの果実であったとしても
その果実は食べ続けられねばならない
その最後の一つを食べ尽くすまで
もう収穫の時期は過ぎている
そしてあなたに、共に手を携え宣言する許しを請うのだ
「私たちは、愛する男性とだけ
性の喜びを分かち合いたいと願う
女という素晴らしい性に生まれてきたのだ」
NHK「ETV2001問われる戦時性暴力」
改変事件に抗議する
空 生駒孝子
そこにあったのは同じ空だった
銃弾の雨の向こうにあったのは、
B29に切り取られた青空だった
遠州の空は、いわし雲を乗せて変わらずここにある
変わったのは、飛行機の黒い陰に逃げ惑うことなく見上げる
24万の瞳だ
父親の覗きこむ特大の望遠鏡は、
得意気に旋回するブルーインパルスを捉えて離さない
「僕、大きくなったらパイロットになるんだ!」
幼子の手を引き、空を見上げて母親は応える
「その制帽を被ってね、かっこいいね」
「僕、あの飛行機に乗って、遠い遠い国まで飛んで行くんだ
遠い遠い国へ行って、それから、それから:」
「ねえ、おかあさん、それから僕は何をするの?」
2010.10.17浜松基地航空祭にて