使用済み核燃料棒のおうち

                生駒 孝子

 

ボクは「使用済み核燃料棒」なんて長い名前で呼ばれている

高度経済成長時代にボクは生まれた

モノも電気もジャブジャブ浪費することが

幸せだったでしょう?

 

それから三十年もボクは仮住まいのままなんだ

おうちもないのにボクの仲間は今日も増え続ける

海の向こうでは、ボクの仲間に

他国への嫁入り話もあるらしい

でもボクは唯一の被爆国、日本で生まれたんだ

だからお婿には行かないよ 


ボクのおうちは、どこにいつできるんだろう?

それは藁のおうち、木のおうち、それとも

レンガのおうちかな?

表札もちゃんとつけておいてね

十万年後の人にもはっきり読める文字でね


とりあえず今は

「求む、ボクのおうち建設予定地」    

昼休みの君               

生駒 孝子

 

 

「ねえ、また君はそこにいるの?」

私はフォークリフトから身を乗り出して  

そっと気配を探る

 

蒼い台車と大きなポリ箱に護られた死角

膝を抱えうなだれて、

君は君を危うく保っている

 

私はフォークリフトで運び出しかけた台車を、

そっと戻して息を潜める

君の黒い安全靴が、台車の脇からわずかにのぞいている

私は安全靴の固い光に弾かれながら、

君に聞けない言葉を反復するのだ

 

「キンコン キンコン キンコン」

私には遠ざかることしかできないのか

ピクリとも動かない君の制服の袖を

目で追いながら

 

フォークリフトの警告音だけが工場に響いている