三菱直島製錬所と朝鮮人強制労働
岡山の玉野市宇野からフェリーに乗れば、約20分で直島に着く。この島の北方に三菱マテリアルの直島製錬所があり、現在も稼働していている。
直島製錬所については、浄土卓也『朝鮮人の強制連行と徴用 香川県・三菱直島製錬所と軍事施設』(社会評論社1992年)で、元労務係の「募集日誌」の分析を中心に直島への強制連行の調査が示されている。この調査によれば朝鮮人の動員状況はつぎのようになる。
「移入朝鮮人労務者状況調」(中央協和会)によれば、直島製錬所には1939年に100人、40年に190人、41年に170人の計460人の動員が承認され、42年6月までに328人を動員、現在員数は248人である。「小菅知事引継書」(1945年1月)には、現在員780人とあり、42年6月の現在員数248人から520人ほど増えている。42年6月までに328人動員、42年6月の現在員248から45年1月までの現在員数780人という状況から、45年1月時点までの動員数は850人以上とみることができる。
直島製錬所動員担当者の「朝鮮人労務者募集日誌」からは、1940年3月から44年3月まで11次にわたって動員がなされ、数が判明しているものだけで600人を超える。動員は1940年3月の宜寧郡から始まり、判明分だけで、40年に2度、41年に3度42年に2度、43年に2度、44年に1度と繰り返された。当初は、慶尚南道の宜寧郡が指定され、42年10月の第5次動員では咸安郡となり、43年8月の第9次の動員は蔚山郡、44年3月の11次の動員は梁山郡からとなった。動員は「募集」というものの「割当」動員出会ったことが日誌からわかる。
聞き取りによれば、家族を呼び寄せた者が100人ほどあり、呼び寄せ家族は300人を超えたという。動員された家族はヘキや在ノ神の社宅に入り、単身者が重石にできた靖和寮に収容された。下請けの岡田組などに募集され、動員された朝鮮人もいた。
当時、動員された朝鮮人で死亡したものの氏名は何人か明らかなっている。それは、前田寿鶴(梁山出身、1942年9月27日)、柳今石(岡田組、43年1月20日)、閔至鎬(岡田組、安東出身、同年8月28日)があり、金本昌泰(同年9月17日)などである。宮之浦の墓地には岡田組の朝鮮人の木製の墓標の墓があったが(浄土卓也『朝鮮人の強制連行と徴用』173頁に写真) 、現在、墓標は亡くなり、その位置はわからない。
朝鮮人の墓標付近の無縁墓
直島製錬所に連行された朝鮮人朴明寿は次のように語っている。
1926年2月、平安南道价川郡で生まれた。18歳の頃、价川の炭鉱で監督の下で「監量」(出炭量の管理)の仕事をした。鉱夫の有利になるように印を押していた。しかし、ばれてしまい、逃げようとしたが、巡査に捕まり「日本に徴用に行け」」と言われた。留置所に行くよりいいわと思い、ソウルから釜山を経て三菱の直島製錬所に徴用された。19歳だった。1944年7月末、50人ほどで来た。製錬所の見学の際、逃走した朝鮮人を「見せしめ」で憲兵が木刀で殴ったり、蹴ったりしていた。慶尚道、全羅道の人と3人で一つの部屋に入れられたが、相談して脱出することにした。夜、囲いをくぐって脱走し、小舟を漕ぎ、陸にたどり着いた。そして由加駅(現、宇野線迫川駅)から名古屋に向かった。飛行場工事や郊外の亜炭の現場で働き、解放を迎えた。解放後、長野を経て、京都の東九条にきた (『東九条の語り部たち』京都市地域・多文化交流ネットワークサロン2013年)。
三菱鉱業直島製錬所への朝鮮人の強制動員数は1000人ほどになったとみられるが、この証言は1944年7月の集団動員の状況と脱出を示すものである。ところで、製錬所のウエブサイトや『直島町史』には戦時の強制動員を示す記述はない。
三菱製錬所の稼働は1917年であるが、煙害のために直島の北半分、特に製錬所周辺の草木は枯れはてた。現在では植林が進められてはいるが、荒地も残る。現在では「無公害」とする製銅法を開発し、銀銀滓のリサイクル事業もすすめている。
島の南側はベネッセによるアートサイトとされ、整備が進む。「現代アートの聖地」とも宣伝される。草間彌生の作品「赤かぼちゃ」なども展示される。だが草間の生への不安や反戦平和の抗いの精神は削がれ、観光の商品とされているようだ。
戦時強制動員を隠蔽し荒地の広がる直島北部の製錬所周辺の歴史的風景それ自体が、現代アートであり、問いを示している。
玉野市にある三井の玉野造船所や日比製錬所も朝鮮人が強制動員された場所である。玉野造船所の一部はいま、三菱重工業のマリタイムシステムズとなっている。三井E&Sホールディングス(旧・三井造船)から三菱が艦艇事業を獲得し、護衛艦や音響測定艦などを製造している。その風景もまた戦争責任、植民地責任を問うことなくすすむ、現在の軍拡の問題を問いかけている。
(t)