富士駐屯地への長射程ミサイル配備反対・三島集会

2025年10月15日に三島市でみしま憲法9条の会主催による富士駐屯地への長射程ミサイル配備反対集会が開催され、40人が参加した。講師の竹内康人「富士駐屯地への長射程ミサイル配備とは? 富士を戦争の拠点にするな!」の題で問題提起がなされ、御殿場や裾野、三島、沼津など静岡県東部からの参加者が意見を述べた。以下は、集会での配布文書である。

    

富士駐屯地への長射程ミサイル配備とは? 富士を戦争の拠点にするな! 

はじめに

わたしは東富士演習場の歴史に関心を持ち、『静岡県の戦争遺跡を歩く』(静岡新聞社2009年)に「戦争と富士裾野の演習場」を記し、東富士での軍拡に反対する行動にも参加してきました。

最初に強調しておきたいのは、「富士が攻撃の対象となる」と語るのではなく、日米共同軍事作戦の下で「富士が戦争の拠点、先制攻撃、侵略、加害の拠点となる」と認識すべきということです。「戦争の被害を受けない」と宣伝するのではなく、戦争責任や植民地責任を自覚し、主権者として「戦争をさせない」、「戦争加害を繰り返さない」と活動する視点が大切です。

                        

1 戦争ができる国から戦争をする国へ  2015年戦争法、2022年安保3文書改定

日米の軍事同盟の強化の中で、安倍政権は2015年に日米防衛協力の指針を再改訂し、戦争法を制定しました。それにより、日本は重要影響事態とみなせば米軍を後方支援し、存立危機事態とみなせば集団的自衛権を行使することになりました。また自衛隊をグローバルに派兵できるようにしました。

「武力の行使の新3要件」

この動きに関しては、2014年に安倍政権が集団的自衛権行使容認の際に示した「武力の行使の新3要件」が重要です。そこには「我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること。これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと。必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」とあります。ここには2015年戦争法での重要影響事態での米軍支援、存立危機事態での米軍との共同戦争の実行というもくろみが示されていました。

2022年12月の安保3文書改定の閣議決定はこのような動きに従ったものです。3文書とは国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画ですが、それは、戦争の方針、戦争のための兵力、兵力をどう使うかを示したものです。防衛力整備計画はこれまでの5年から10年に延長されています。

国家安全保障戦略

新たな国家安全保障戦略の特徴は「自由で開かれたインド太平洋」のために日米同盟と防衛力の抜本的強化をおこなうというものですが、簡単に言えば、「敵基地攻撃能力」(「反撃能力」)の保有です。それは敵地攻撃力であり、先制攻撃もありえるということです。平時の軍事化を示す「シームレス防衛」という考え方も示されています。領域横断作戦能力、スタンドオフ防衛能力、無人アセット防衛能力を高めるとしますが、要するに遠くからミサイルを撃つために部隊を強化し、無人機もそろえて中国との戦争を想定するというのです。そのためには多額の費用が必要ですから、令和9年度(2027年)に防衛予算をGDP2%に倍増するというわけです。そして、自衛隊による海上保安庁の統制、防衛装備の移転(武器輸出)、サイバー安保を強化するというのです。

 近年の戦争の特徴は、宇宙の軍事化、予防先制攻撃、シームレス(平時と軍事の連続性)ですが、これに対応して、敵への先制攻撃ができるようにするというわけです。

国家防衛戦略

 それをふまえて新たな国家防衛戦略を立てています。日米同盟を中心に自前の防衛戦略、反撃能力、抑止力を持つとし、スタンドオフ防衛能力を高め、統合防空ミサイル防衛能力 (Integrated Air and Missile Defense)を強化するとしています。抑止力の名でのミサイル軍拡をすすめるわけです。また、国産ミサイルの増産、サイバー防御、民間輸送力の軍事活用、空港港湾の軍事利用などをすすめ、弾薬庫・火薬庫の増設、主要司令部の地下化、持続可能な防衛産業を構築するとします。さらに、領域横断・非対称的優勢に向けて、無人アセット防衛能力、領域横断作戦能力、指揮統制・情報機能を強化するとします。そして、作戦の継続能力や機動展開力を強め、持続性や強靱性を高めるというのです。

防衛力整備計画

この防衛戦略によって新たな防衛力整備計画を立てたわけです。10年で、スタンドオフ防衛能力を強化するが、その中身は12式(ひとにいしき)地対艦誘導弾の能力を高め、米軍からトマホークも購入する。陸自にスタンドオフミサイル部隊を置き、10年でミサイルを確保する。また、統合防空ミサイル防衛能力を強め、パトリオットを改修し、イージスシステム搭載艦を整備する。さらに対処力、戦闘継続能力を強め、無人機、宇宙、サイバーの領域での能力を高める。海保を統制する。そして統合司令部を創設するとします。それは自衛隊の統合司令官と米軍司令官とが一体化して作戦を指導するものとなります。航空自衛隊は航空宇宙自衛隊へと名称を変えます。2023年度から27年度の5年間で43兆円の軍事費を投入するとします。この動きによれば、2023年度で6兆8000億円、2027年度には約9兆円へとなります。

このようにミサイル配備・開発をすすめ、継戦能力を重視し、統合司令部を創設し、司令部の地下化もすすめるというのです。この間、南西諸島へのミサイル配備がすすみ、民衆の反対運動も起きました。

それは中国との戦争を想定し、日米の軍事同盟の下で自衛隊が先制攻撃をも担うための軍備拡大です。今後は日米防衛協力指針の新たな改訂もおこなわれるでしょう。抑止力・対処力・継戦力の名でミサイル大軍拡と大増税がすすめられています。沖縄の島々のみならず日本全土の戦場化が想定されています。まさに戦争のできる国から戦争する国への変質です。

 このような敵地攻撃能力を国家の方針とすることは明確な憲法違反です。政府の暴走を止めなければなりません。

2 東富士演習場の歴史

東富士演習場の面積は8800haほどであり、山梨県側の北富士演習場を含めると、富士の演習場は12000haを超える広大なものになります。本州では最大の演習場です。

陸軍富士裾野演習場

 この東富士演習場はかつて陸軍富士裾野演習場と呼ばれていました。陸軍がこの地域で軍事訓練を始めたのは1891年のことです。1986年には陸軍の砲兵隊による実弾訓練がおこなわれるなど、演習場は拡張され、日ロ戦争後には滝ヶ原(1908年)、板妻(1909年)などに廠舎が建設されました。1909年には最初の演習場協定が軍と関係町村の間で結ばれましたが、軍事訓練は地域住民の生命と生活を脅かしました。

陸軍は印野村の本村・掘金・北畑の3地区に対し、1910年に強制移転を通告しました。この通告に対して村民は抵抗、結局、強制移転の計画は縮小され、北畑地区が川島田に移転することになりました。1912年の演習場の使用協定書では陸軍側が補償金を支払うことになりました。

侵略戦争がすすむにつれて演習場での軍事訓練も強化され、1933年7月には演習場内の大野原で歩兵の連合訓練中に数百人が倒れ、8人が死亡、重症18人、軽症推定600人という事故が起きています。富士裾野で毒ガス実験・訓練もおこなわれるようになりました。1938年9月下旬には陸軍野戦砲兵学校・陸軍習志野学校・陸軍科学研究所による「連合研究演習」がおこなわれています(「陸軍野戦砲兵学校、陸軍習志野学校、陸軍科学研究所連合研究演習ニ関スル件」、アジア歴史資料センター)。この軍事訓練は野砲や榴弾砲による毒ガス弾の射撃法やその効力を調べるものでした。あか弾(ジフェニールシアンアルシンを成分、くしゃみ性・嘔吐性)、きい弾(イペリットやルイサイトを成分、糜爛性)などが使用されています。東富士は毒ガスの実験と訓練の場にもなり、基地周辺の欅にも異常がみられるようになりました。この訓練は中国大陸での実戦使用につながるものでした。

米軍と東富士演習場

アジア太平洋戦争の敗戦によって、帝国軍隊は解散し、演習場は地域民衆に解放されました。けれどもすぐにアメリカ軍による占領がはじまり、東富士演習場はアメリカ軍による朝鮮戦争への出撃のための訓練場となります。何の補償もなく演習場は拡張され、軍事基地と隣接する学校も生まれました。このなかで軍事基地化に反対し、生存権の確立をめざす地域民衆の運動がたかまったのです。1955年には米軍の「オネストジョン」ミサイル発射阻止の行動がありました。このような運動のなかで1957年には東富士演習場地域農民再建連盟が結成されています。

1958年には滝ケ原、板妻、駒門の3つのキャンプが日本に返還されましたが、演習場はアメリカ海兵隊の管理下におかれていました。返還されたキャンプには陸上自衛隊が駐屯するようになり、1958年に自衛隊立入禁止訴訟が取り組まれました。1965年には地域民衆が「リトルジョン」ミサイル発射阻止闘争をしました。1960年代、東富士演習場はベトナム戦争に向けての訓練場となり、アメリカ軍はここで訓練した後、沖縄から出撃していったのです。

1968年には演習場地域が日本へと「返還」され、アメリカ軍の基地は「キャンプ富士」だけになりました。「返還」された演習場は自衛隊が管理するようになったのですが、その管理下で、東富士から沖縄に移駐した海兵隊は演習場を自由に使用し続けました。返還後も米軍が毎年最大270日、優先的に使用できるという東富士密約があったのです。

東富士での日米共同訓練と104訓練

 1980年代には、東富士で日米共同訓練がおこなわれるようになり、日米の軍事的共同がすすめられていきます。1990年代には「思いやり予算」によって「キャンプ富士」内のアメリカ軍施設の整備がすすみました。1994年の東富士でのアメリカ軍による155ミリ榴弾砲の実弾発射数は約6800発に増加しています。

これに加えて、沖縄の海兵隊の沖縄県道104号線越え実弾射撃訓練の本土への分散移転によって、1998年から東富士でもこの訓練がおこなわれるようになり、実弾訓練数は増加したのです。この104訓練の東富士への移転に対しては御殿場市民による反対運動が起きています。

 この104訓練は2025年までに20回おこなわれています。訓練は沖縄の負担軽減を口実に行われていますが、実際には米軍による155ミリ榴弾砲訓練の日本全土への拡大です。また部隊移動には民間業者のバス、トレーラー、飛行機、貨物船を利用するなど、民間動員をともない、自治体が管理する港湾を軍事利用するものです。このような民間業者や自治体港湾の軍事利用は中止すべきです。また実弾訓練では夜間射撃もおこなっています。さらに白リン弾を使用するようになりました。白リン弾はクラスター弾であり、有毒、化学兵器の類です。その使用も中止すべきでしょう。

グローバル戦争がすすむなかで、都市ゲリラ戦用の訓練施設も建設されました。東富士で訓練をおこなった沖縄の海兵隊はイラク戦争にも投入され、イラクのファルージャでは多くの市民を殺傷しています。御殿場の陸上自衛隊もイラクのサマワに派兵されました。また2014年にはオスプレイが飛来し、それ以降、普天間や岩国、横田、厚木などから飛来するようになりました。

2022年の3月の沼津の今沢海岸と東富士で日米共同訓練についてみておけば、今沢で上陸訓練を行い、東富士で射撃訓練をおこなうというものでした。沖縄の米海兵隊と陸上自衛隊の水陸機動団が共同し、日米でオスプレイが共同使用されたのです。

参加部隊は、陸自の水陸機動団(佐世保)、第1ヘリコプター団(木更津、V22オスプレイなど)と米第31海兵遠征部隊(沖縄キャンプハンセン)、第1海兵航空団(普天間、MV22オスプレイ)です。いま台湾有事や離島防衛の名で、沖縄などの島々で基地の機能を強化していますが、それは、中国との戦争を想定したものです。

東富士演習場はアジアの戦争に直結しています。ここは日清・日ロ戦争から日中戦争・アジア太平洋戦争に関する戦争を語り伝える場所であり、朝鮮戦争・ベトナム戦争・イラク戦争、そして日米の軍事的一体化の現状を物語る場所です。また、地域民衆による生活と生存の権利の確立にむけての100年の運動と「富士を撃つな!」と平和的な生存を求めて行動する市民の運動の前線です。

 富士に軍事演習場をつくり100年にわたって軍事利用してきた歴史をかえりみ、その平和利用にむけて想いを馳せることもできます。その想いは、生命の源である大地を大切にし、人間性としての精神の回復に向かうものであると思います。   

3 東富士のミサイル基地化                          

東富士への高速滑空弾と12式地対艦誘導弾能力開発型の配備

2025年8月末、防衛省は陸自富士駐屯地に長射程ミサイル(スタンドオフミサイル)のひとつである「島嶼防衛用」高速滑空弾を2025年末までに、12式地対艦誘導弾(能力向上式)を2027年度に配備するとしました。

12式地対艦誘導弾能力開発型は健軍(熊本、2025年、26年度)と富士(27年度)、艦発射型を横須賀の「てるつき」(27年度)、空発射型を百里(茨城)のF2(27年度)、島嶼防衛用高速滑空弾を富士(25年度)、上富良野(北海道、26年度)、えびの(宮崎、26年度)に配備予定というのです。

日本はアメリカのトマホークを購入し、日本では12式誘導弾(改良型)、高速滑空弾、極超音速誘導弾などを製作するとしています。

12式誘導弾(能力開発型)は日本製造の巡航ミサイルであり、トマホークのように射程1500キロメートルを目指しているといいます。地上発射だけでなく艦船や航空機からの発射型も開発しています。三菱重工業が製造しています。

高速滑空弾は地対地ミサイルであり、先端に極超音速の滑空体を付けた中距離弾道ミサイルです。滑空体は高度で切り離され、長距離の滑空飛行することになります。滑空飛行によりミサイル防衛が困難になります。衛星測位システムによる誘導も可能といいます。射程も3000キロになるとみられます。この滑空弾も三菱重工業が契約しています。

極超音速誘導弾は日本が開発中のミサイルです。極超音速はマッハ5以上をいい、対艦、対地のミサイルとなります。水平方向に軌道を変更したり、滑空する誘導弾を研究しています。迎撃されにくく、射程は3000キロに達するとみられます。この誘導弾も三菱重工業が開発をすすめています。日米の共同開発であり、アメリカ側はノースロップグラマン社、三菱がロケット部分、弾頭の推進装置を担い、納期は2029年3月といいます。

 三菱重工業はこれらのミサイル以外にもパトリオットやSM3などもミサイルも製造しています。これらのミサイル製造で政府から年に数千億円を受け取るわけです。数年間で総額は1兆円を超えるでしょう。

これらのミサイルは「台湾有事」を口実に中国を仮想敵として配備されていきます。島嶼防衛用」は配備のための宣伝であり、他国攻撃用のミサイルの配備にほかなりません。富士に配備する高速滑空弾については教育と運用を並行するとしており、実戦での使用も想定されています。この配備は、まさに富士を戦争の拠点とするものです。

東富士での陸自多連装ロケットシステム(MLRS)射撃訓練

2025年10月7日には国道を封鎖しての陸自のロケット弾訓練が行われました。これに続いて米軍もロケット弾訓練を進めるでしょう。富士のミサイル基地化がすすみます。

 経過をみれば、2025年8月27日、東富士演習場に関わる御殿場市、裾野市、小山町の2市1町は、防衛省南関東防衛局が東富士演習場で陸自多連装ロケットシステム(MLRS)の射撃訓練実施の協議を依頼していると発表しました。防衛省の説明書には、演習場内を通る国道469号を通行規制し、MLRSの演習弾を発射する。理由は北海道の矢臼別は遠く、より近くで訓練し、即応体制を高めたい。在日米軍も同様。期日は10月上旬の1日とし、「米軍についても、現在、高機動ロケット砲システム(HIMARS、ハイマース)による射撃訓練計画を検討中と承知している」とありました。

9月10日に行われた御殿場市など2市1町、東富士演習場地域農民再建連盟と防衛省との協議では、MLRS訓練を10月7日に実施(8~10日を予備日)。陸自西部方面隊第2特科団(大分県・湯布院駐屯地)のMLRS3門(演習弾6発)を使用。午前10時から30分、午後1時から30分を通行規制。射撃場所は新たに設定という内容が示されました。これに対し、市や再建連盟は訓練の詳細や必要性、安全性、国道の通行規制に関して質問し、その結果、協議はまとまらず、26日に再度開くことになりました。26日の協議の結果、地元側は、MLRS射撃訓練は今回限りとして了承しました。

 防衛省側は本州最大の演習場である東富士でMLRSロケット発射訓練をおこない、それに続いて米軍もHIMARSの訓練を実施することを狙っていたのです。案の定、この了承直後の10月2日、防衛省は2市1町に、米軍HIMARSの東富士での使用の協議を申し入れました。

すでに2021年の共同訓練では、北海道の矢臼別でMLRSとHIMARSの共同発射訓練が行われています。東富士では2025年、アメリカ海兵隊がHIMARSの乾式射撃訓練を行い、海兵隊大隊の殺傷力、抑止力、即応力の維持のために訓練が必要と語っています(7月1日米軍のフェイスブック)。東富士での104訓練でも、沖縄海兵隊は関連車両としてHIMARSを持ち込み、運用してきました。今後はロケット実射もしたいのです。現在のミサイル軍拡の動きをみれば、これまでの訓練とは様相を変え、東富士演習場でミサイル、ロケット弾訓練もおこなわれるという動きです。

しかし、東富士演習場では、1965年に米軍がリトルジョン(ロケット弾、ミサイル)を発射、さらに自衛隊がR30型ロケット弾の試射をする中で、ミサイル基地化反対運動が起きました。それを受けて、防衛庁と再建連盟と間で1967年8月6日、「東富士ミサイル基地化否定の確約」が成立しています。ミサイルを持ち込まないことが確認されているのです。防衛省側は、MLRSはロケットでありミサイルには該当しないのでこの確約には反しないとします。けれどもこの確約はロケット試射を巡ってものですから、今回のMLRS訓練、そしてHIMARSの訓練計画はこの確約に反するものです。

ここで2024年に大分県・陸自湯布院駐屯地に第2特科団についてみておきます。第1特科団はすでに北海道の千歳にありますが、第2特科団は西部方面特科隊と多連装ロケット、地対艦ミサイルの部隊を再編して置かれ、長射程ミサイル配備が想定されている部隊です。

 主な兵器は19式装輪自走155ミリ榴弾砲、12式地対艦誘導弾、MLRS(多連装ロケット)です。湯布院には団本部と第8地対艦ミサイル連隊、多連装ロケット中隊、熊本の健軍には第5地対艦ミサイル連隊、沖縄の勝連、宮古、石垣、鹿児島の瀬戸内には第7ミサイル連隊、北熊本、玖珠、えびの、久留米には西部方面特科連隊が置かれています。

 現在の12式地対艦誘導弾は射程が200キロほどですが、これを改良して長射程にするというわけです。改良型が健軍に配備され、高速滑空弾をえびのに配備するというのがこの8月の防衛省の発表です。今後、長射程ミサイルは第2特科団を中心に配備されていくでしょう。

富士にはこの両方が配備されます。なお富士の特科教導隊にはすでに12式地対艦ミサイルが配備されています(2012年、第6射撃中隊)。

2015安保法制、2022安保3文書改定の動きは現行日本国憲法の戦争放棄、平和的生存権の理念に反するものです。長射程ミサイルの配備は憲法違反であり、「専守防衛」の原則にも反するものです。また日中平和友好条約の平和共存の理念にも反しています。戦争国家アメリカの軍事路線への追随、従属は中止すべきであり、日本は平和外交をすすめるべきでしょう。

富士が攻撃の対象となることを宣伝する前に、富士が戦争の拠点、先制攻撃、侵略、加害の拠点となることを拒否する立場を確認することが必要です。


おわりに

 ミサイル軍拡の動きに対しては沖縄、西日本の市民団体が、戦争止めよう!沖縄・西日本ネットワークを結成し、反対の活動を進めています。このネットワークは2024年に呉や大分での交流会を経て2025年2月に鹿児島で結成されました。6月には東京の衆議院第1議員会館で政府交渉をおこなっています。沖縄・西日本からの参加者も含め、200人ほどが参加、ネット中継を300人が視聴しました。

政府交渉は、事前の政府への質問・要請書への回答を踏まえた追加質問を中心になされました。その内容は、1 軍事力強化以外の外交努力・民事施設の軍事利用の撤回、2 安保3文書と防衛費増加の問題、3 佐賀へのオスプレイ配備、呉の防衛拠点化と住民説明会の実施、4 長距離ミサイル配備での住民説明・対話、多国間協調、5 軍需産業でのミサイル製造と保管のリスク問題、6 弾薬庫建設での住民説明・保安距離の見直し、7 武力攻撃事態の認定、避難計画の問題、8 空港・港湾・道路の軍事利用に関する住民説明、平和利用などです。

主権者市民の反戦平和の声を聴こうとせず、アメリカ戦略に追随し、この国を戦争への道へと進ませる動きがすすんでいますが、このなかで市民が戦争反対のネットワークを作り、集いを重ねて、政府交渉をおこなったのです。政府側の説明は、人間として戦争準備を止めようとする姿勢のないものであり、官僚答弁はAI音声のようでした。

10月19日には弾薬庫の増設がすすむ京都の祝園で全国集会が開催されます。11月24日には12式ミサイル能力開発型が配備される熊本で集会が予定されています。

北富士農民は「草こそ命、山こそ命」と語り、軍事訓練に抵抗しました。そのような大地と共に生きる視点が大切と思います。世界遺産の富士山は平和の象徴です。静岡県からも富士へのミサイル配備反対の声をあげましょう。水こそ命、三島は富士の湧水の町であり、富士とつながっています。富士ヘのミサイル配備、戦争準備を拒否すると声をあげるときです。 

富士を戦争の拠点にするな!富士を撃つな!長射程ミサイルはいらない!富士山に軍事基地はいらない!日本は平和外交と軍縮をすすめよ!アメリカは基地を返還せよ!と。

参考文献

教育総監部「陸軍野戦砲兵学校、陸軍習志野学校、陸軍科学研究所連合研究演習ニ関スル件」1938年9月 アジア歴史資料センター

仁藤祐治『東富士演習場小史』悦声社1975年

仁藤祐治『続・東富士演習場小史』悦声社1985年

『御殿場市史9通史編下』御殿場市1983年

小原博康「東富士演習場の反対運動」『月刊むすぶ 326』ロシナンテ社1998年2月

静岡地理研究会『富士山 世界遺産への道』古今書院2000年

荒川章二『軍隊と地域』青木書店2001年

『東富士ウォッチング ガイドブック』御殿場平和委員会2019年

『希望を拓く 静岡県民の社会運動史』静岡県社会文化会館2021年

竹内「戦争と富士裾野の演習場」『静岡県の戦争遺跡を歩く』静岡新聞社2009年